複雑なる、うま味食材のからみあい

「西アフリカ料理のうま味のもとは、干し魚、燻製の魚、それとネテトゥ(納豆)。ギニアとセネガルでは発酵させた干し貝も用います」

そう解説するのは、アフリカ人類学者の清水貴夫さん。コートジボワール、マリ、ガーナなどの料理を食べられる“西アフリカの食の国際都市” ブルキナファソの首都・ワガドゥグでの調査を『ブルキナファソを喰う!』(あいり出版)に著した。

アフリカの食の専門家である清水さんが、太鼓判をおす美食王国はどこか。

「アフリカも広いですが、西アフリカ料理の代表といえば、セネガル料理でしょう」

西アフリカ諸国は、日本と同じ、米食う国だった

炊き込みご飯、チェブ・ジェン。干し魚、燻製魚、干貝、さらにネテトゥ、固形スープの素などがうま味調味料として用いられる。(清水貴夫さん撮影)

そのセネガルの国民食「チャブ・ジェン」は、意外にも米料理だ。魚のうま味と赤いパーム油が米に染み込んで、「鯛めし」の強烈版といえばいいか。米食う民族として、グッと親近感がわく。

「西アフリカでの米の使い方は、ちょっと突出していると思います。料理法や、うま味の出し方とか」と、清水さんは言う。

チェブ・ジェンには白と赤があるそう。こちらは白。米の粒が小さく砕かれていることに注目。(清水貴夫さん撮影)

他の有名な米料理に、アメリカでファストフードとなっているナイジェリアの「ジョロフライス」がある。肉とニンニク、香味野菜とトマト、野菜をスープにして炊き込んだご飯だ。セネガルのピーナッツのシチュー「マフェ」や「スープ・カンジャ」も、米と一緒に食べることが一般的で、どんぶりやライスカレー的なご飯料理ともいえる。

アフリカ独自の米の使い方に、破砕米=割れたコメにうま味を吸わせることがある。フランスがセネガルを植民地にしていた頃、インドシナから完全な米をフランスに、セネガルへは安い破砕米を送った。これがセネガルでは「油とうま味をよく吸っておいしい」と好まれた。安価な米を、うま味を最大化する食材へと転じたのだ。現在はインドやタイからの輸入米が、わざわざ砕いて売られている。

メジャーな主食は、ほっかほかの「餅」

アフリカで、米よりもメジャーな主食は「餅」だ。材料は餅米でなく雑穀。石臼で挽き、蒸すなどして、そばがきのような練りがゆ状にしたもので、素材、そして呼び名も各地で異なる。フフと呼ばれる餅はキャッサバなどからつくられる。

コンゴの首都、キンシャサのレストランで食べたフフ。キャッサバの粉を練ったもの

ケニアのウガリはとうもろこしの粉からつくる。清水さんがブルキナファソで親しんだ「ト」の原料はメイズ(トウモロコシ)粉だ。どれももっちり食品好きの我々には、うれしい食感。熱々を(手で)いただくが、「食事は温かくないとおいしくない」という嗜好も、日本とアフリカの共通点だ。

ササゲ豆をつぶして蒸かしたゴンレとザムネと呼ばれる種を茹でたもの。(清水貴夫さん撮影)

 アフリカの食も、進化している

「アフリカの食と聞くと、すべて伝統的にあるものだというふうに想像しがちなんですが、やっぱり食にはトレンドがあって、進化もしている。たとえば、セネガル人が米を食べ始めたのは近代、比較的豊かな都市部からです。早く便利に美味しく食べられるから。こういう傾向も含めて、おそらくアフリカの食は西洋的な方に向かっている気がするんです」と言う。和食も、近代以降、西洋の影響を受けて変化した。アフリカ料理も和食も、時代のトレンドを受けながら、同じ方向に歩み寄っている。