マネックスグループ代表執行役会長 松本大氏(撮影:梅千代)マネックスグループ代表執行役会長 松本大氏(撮影:梅千代)

 高い技術力と世界に誇る文化を持つ一方、GDP成長率の低迷や財政の悪化、そして2022年から続く円安傾向によって日本の力は弱くなっている──。そう語るのはマネックスグループ代表執行役会長の松本大氏だ。2023年10月に『松本大の資本市場立国論 日本を復活させる2000兆円の使い方』(東洋経済新報社)を上梓した同氏に、日本と日本企業が生き残るために進むべき道を聞いた。

日本経済の追い風が吹く今こそ、改革を進めるチャンス

――著書『松本大の資本市場立国論 日本を復活させる2000兆円の使い方』では、日経平均株価の上昇など日本経済にとって追い風が吹く中で、日本企業が世界経済の中でプレゼンスを高めることの必要性を挙げられています。今、日本の上場企業にどのような取り組みを期待されていますか。

松本大氏(以下敬称略) 上場企業の経営者に世代交代が起きていて、外国のお金もたくさん入ってきている今こそ変革のチャンスです。この流れに乗ることができれば、日本の上場企業が一気に改革を進められると期待しています。

松本 大/マネックスグループ 代表執行役会長

マネックスグループ 代表執行役会長。1987年東京大学法学部を卒業後、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社(現シティグループ証券)に入社。1990年ゴールドマン・サックス証券に入社。1994年、史上最年少の30歳でゴールドマンサックス・パートナーに就任。1999年マネックスを設立し、オンライン証券サービスの草分けとして急成長を遂げる。東京証券取引所、マスターカードなど上場企業の社外取締役を歴任。

 一昔前は、企業の改革をしようとしても「昭和の成功体験」を引きずっていたので、企業のOBや市場からも「なぜ変える必要があるのか」という声があがっていました。しかし、今は昭和の成功体験を持っていない経営者が増えていますし、社会的にも「もっと変えて欲しい」と追い風が来ている状態です。

 特に、世代交代はこれまでにない大きなチャンスです。私が社会に出た1987年は、先輩世代が戦後のボロボロな状態から一気に日本を成長させたことで、世界の時価総額上位50社のうち三十数社を日本企業が占めるという、社会や経済のピークでした。

 しかし、この「成功体験」は厄介なものです。世界の枠組みが変わり、需要が多様化する中でも、日本は自らのあり方を変えようとしませんでした。成功体験があったがために、世界が日本に向けて「変わったほうが良い」と言っても、「他国が日本の脚を引っ張ろうとしている」「日本はこんなに成功しているのに、何を言っているんだ」と取り合わなかったのです。

 徐々に弱っていく日本を見て、若い世代が「早く変わるべき」「世界のやり方を取り入れれば、もっと良くなるのに」と思っていても、先輩世代が変わろうとしなければどうしようもありません。

 しかし、最近になって世代交代が起き、私の世代やもっと若い世代が上場企業や行政のトップに立つようになりました。その結果として「昭和の成功体験に基づく、古いやり方を続けなくてはならない」というプレッシャーが減り、改革のチャンスが増えています。 このチャンスを逃さず、新しい世代の経営者は今の時代に合った形に組織を変えていくべきだと考えています。