新年には松の内に初芝居を

正月の浅草寺 写真=アフロ

 師走には京都の顔見世、お正月はできれば松の内に初芝居、というのが、歌舞伎をたのしむ正しい年末年始だ。

「歌舞伎座は、やたらと立派な門松や鏡餅、餅花なども飾られて、まさに正月気分が味わえる。和服客も多いし、日本髪の女性が見られることもある特別華やかな空間です」

 ちなみに、歌舞伎は毎年1月2日に幕が開く。NHKが初芝居を中継するので、観てから1月の劇場に行くのもいいという。

「古いしきたりが残っていて、礼儀にうるさい世界ですからね。歌舞伎界の年始のご挨拶回りは元旦と決まっていて、役者からお囃子連中まで、朝からたくさんの車が都内のガラガラの道を飛ばしてすれ違ったりするそうです」

 

浅草歌舞伎は世話物をたのしむ

 毎年、1月の東京・浅草公会堂は、若手をメインとしている。2024年の「新春浅草歌舞伎」(1月2日~26日、※休演日あり)は、尾上松也(38歳)を座頭に、次代をになう顔ぶれでの初芝居となる。

 古谷さんも、浅草の観音様に初詣してから向かう予定だ。

「第1部の『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』、第2部の『熊谷陣屋(くまがいじんや)』は、本格的な時代物に、若い世代を挑戦させるというところでしょう」

 ビギナーでもたのしめるのは、1部、2部ともにわかりやすくてストーリーも面白い世話物の演目だと古谷さんはいう。

「第1部の『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)源氏店(げんやだな)』は、春日八郎の『お富さん』の歌でも有名ですよね。中村隼人演じる与三郎の『いやさお富、久しぶりだな』と始まる七五調の名台詞が聴きどころです。

 第2部の『魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)』は、これまた世話物の名作で、作者は河竹黙阿弥。尾上松也がしっかりたのしませてくれると思います」

 浅草界隈は名店やB級グルメも多く、食べ歩きもたのしい。

「浅草公会堂の手前にあった老舗喫茶店『アンジェラス』が閉店したのが残念なんですが。私は『弁天山美家古寿司』がひいき。慶応2年創業のこの店に30年前から通っていましてね。先代の四代目は名人で……、なんて言っちゃうのが『菊吉(きくきち)じじい』なんだけど」

「菊吉じじい」とは、「死んだ六代目菊五郎のは良かった」「初代吉右衛門は、若い頃もこんなもんじゃなかった」と、昔の名優と比較して今の役者の舞台にいちいち文句をつける年配の歌舞伎愛好家のことを指していう。

「『美家古寿司』当代の親方が握る寿司は、江戸前の仕事をしっかり受け継いでいて、私も文句はつけませんよ。まあ、『菊吉じじい』をやるのも歌舞伎のたのしみのひとつなんで、仁左衛門・玉三郎を観ておき、若手の今を観ておくと、いい老後の備えになると思いますね(笑)」

 

※情報は記事公開時点(2023年12月14日現在)。