團十郎襲名の『助六』に世代交代を観る
「團十郎襲名は、歌舞伎界最大のイベントです。私は1985年の十二代目團十郎襲名公演と今回の十三代目襲名を観られてよかったと思っています。たぶん、人生で2回ぐらいしか立ち会えないですから。
襲名の挨拶をする口上で、『にらんでご覧にいれます』といって見せる『にらみ』は、昔から見た人の厄落としになると言われています。新・團十郎の『にらみ』もまさに錦絵のようで、引き込まれました」
2022年11月と12月に歌舞伎座で行われた十三代目市川團十郎白猿(46歳)襲名披露「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」では、花魁・揚巻(あげまき)を女形の頂点、坂東玉三郎(73歳)と尾上菊之助(46歳)、中村七之助(40歳)がつとめた。
今年の南座12月の夜の部では、中村壱太郎(かずたろう・33歳)と中村児太郎(29歳)というぐっと若い女方が、同じく花魁・白玉との役代わりで演じている。
「團十郎襲名という大舞台の揚巻を、もう壱太郎と児太郎が!?と驚きました。二人とも故・坂田藤十郎の孫であり中村鴈治郎の息子、故・中村芝翫の孫であり中村福助の息子という文句ない御曹司で、20年後に揚巻を演ることになるのは当然ですが。今度は若い揚巻を相手に、團十郎がどんないい男・助六を見せるのかお手並み拝見でしょう。
助六では、いつも『福山かつぎ』を誰が演るかというのも話題になります。色街吉原に刹那的に生きる、ミニ助六のようなもうけ役。歌舞伎座では團十郎の息子・新之助(10歳)が演っていましたが、今回は中村隼人(30歳)。そして、幕開きの口上は、なにしろ美形の市川染五郎(18歳)。人気の二人の旬の輝きも観ておきたいところでしょうね」
開演前も終演後もたのしみが
夜の部は午後3時45分開演、終演が午後8時30分頃になる。
「私は新幹線で京都駅に着いたら『晦庵河道屋(みそかあん かわみちや)』に直行して、にしんそばを食べてから行くのが定番コース。渋滞がひどいようなら、南座の近くの有名そば屋に入る手もありますが。何人かでしっかり食べたいというときには、中途半端な時間に開いている料理屋が少なくて困るけど、ずっと営業していて助かるのが河原町駅に近い『鳥彌三(とりやさ)』ですね」
坂本龍馬も好きだったという、独特の鶏がらで取った白いスープがくせになる名店だという。
「終演後には『蛸長(たこちょう)』のカウンターでおでんをつつくのもいいんですが、閉店が早いんであわただしい。南座は四条河原町のど真ん中ですから、近くにおばんざいの店もたくさんあります。翌朝、錦市場で甘鯛の干物や黒豆、京野菜なんかを買い込んで帰るのも、師走のコースとしてなかなかいいですよ」