玉三郎はなぜ「天守物語」富姫を演らないか

 時代の移り変わりを感じさせるといえば、12月の東京・歌舞伎座「歌舞伎座新開場十周年 十二月大歌舞伎」(12月3日~26日、※休演・貸切日あり)も同様だ。

「天守物語」は、1977年に坂東玉三郎主演で舞台化され、大好評を博した。現実と幻想が交錯する泉鏡花の世界は玉三郎の独壇場で、何度も再演されてきている。今回は玉三郎が、自身の代名詞のような富姫役を、中村七之助にやらせて、自分は脇に回っているのも、歌舞伎ファンが感じ入るところなのだという。

「玉三郎は梨園に生まれたわけではない。後ろ盾となるべき養父の守田勘彌は女形でなかったし、玉三郎が20代の時に亡くなってしまいました。若い頃はそりゃあきれいで大人気になったから、周囲からの風当たりが強いというのは、配役を見ているだけでも分かったものですよ。芸を学ぶのにも苦労したはずです」

 しかし、舞台人生の終幕が近づいてくる今、自身に子のない孤高の女形は、家にこだわらず若手たちに芸を伝承しようとしている。

「やはり当たり役の『娘道成寺』を、あえて『二人道成寺』として二人で踊ったり、『五人道成寺』として五人で踊ったりしているのも、その表れでしょう。今回の『天守物語』には、盟友であり早逝した故・中村勘三郎の次男である中村七之助にこの役を伝えたいという決意を感じます」

 演出は玉三郎。その思いが観られるはずだという。

 昼の部では「超歌舞伎 今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)」。歌舞伎と「ボーカロイド」が融合し、中村獅童・初音ミク主演で若い世代の観客を動員し続けている超歌舞伎が、とうとう歌舞伎座で上演されるのも話題だ。