この連載では西洋美術史に名を刻んだ巨匠たちの凄さに迫ります。今回は絵画、彫刻、建築、音楽、演劇、工学、数学、天文学、解剖学、哲学、軍事・・・多岐にわたってその才能を発揮した万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画における凄さを紹介しましょう。徹底したリアリストである画家は、真実を描くためにさまざまな手法を考案します。
文=田中久美子 取材協力=春燈社(小西眞由美)
執拗なまでの観察の人
レオナルド・ダ・ヴィンチ(以下レオナルド)は1452年4月15日、イタリア中部、フィレンツェ郊外の小さな村ヴィンチで生まれました。父親は地元の名士の公証人でしたが、私生児として生まれたので家業を継ぐことはできず、芸術の道に進みます。
14歳から彫刻を得意とするアンドレア・デル・ヴェロッキオの工房で修業をはじめたレオナルドは、徐々に作品の一部を任されるようになり、20歳で親方の資格を得ます。しかし、引き続き助手として工房の仕事をしていました。
レオナルドの創作姿勢は、とことん観察をして真実を描くというものでした。
彼が単独で描いた、言わばデビュー作となるのが《受胎告知》(1472-73年)です。この作品では、タイルを焼いた時にできる小さな穴まで描くなど、執拗なまでの細部へのこだわりを見せています。また、この作品は当時としてはまだ珍しかった油彩で、遠近法やスフマートなど、今日まで定着しているレオナルドならでは絵画の技法の数々が使われています。