創造の秘密を伝える膨大な手稿

トリノ王立図書館が所蔵するレオナルドの自画像(1512年頃)

 完成作品の少ない画家ですが、左利きのレオナルドが左右逆転の鏡文字で書いた膨大な手稿が残っています。3分の2が失われたとされていますが、それでも5000ページに及び、絵画だけでなく、建築や機械工学、解剖学、鳥の飛翔などについてのメモやスケッチ、図などが書き留められています。どれも専門的な内容で、医学について書かれていることは、もしこれが出版されていたら医学の進歩はもっと早かったのでは、と言われるほどのものでした。

 ナポレオンがイタリアに勝利した際、戦利品として500を超える美術品をフランスに持ち帰った中にこの手稿の一部もありました。その中の『レスター手稿』と呼ばれるものは、1994年11月11日にニューヨークで行われたクリスティーズのオークションで、ビル・ゲイツが3080万2500ドル(当時の日本円で約30億円)で落札したことでも有名です。

 絵画についての考察は、現在、ヴァティカン教皇庁図書館に保管される『絵画論』でよく知ることができます。レオナルドの没後、弟子のメルツィが手稿のなかから絵画に関する論考と実技に関する部分を取り出してまとめたものです。万能の天才の創造の秘密を伝える重要な資料からは、レオナルドの絵に対する考え方や技術、そして先進性が伝わります。