新しい遠近法をいち早く取り入れる

《モナ・リザ》1503-05年頃 79.4×53.4cm  油彩・板 パリ、ルーヴル美術館

「空気遠近法」は「大気遠近法」とも呼ばれる技法です。

 今では当たり前ですが、ものは遠くに行くに従って小さく見えます。そして人間の目と対象との間の空気の作用で、遠くに行くに従ってうっすらとして輪郭がぼやけます。これを絵で表現する方法です。

「色彩遠近法」も遠くに行くに従って、緑だったらグレーを帯びていくというように色で遠近を表現する方法です。レオナルドは遠くに行くに従ってものは小さくなり、輪郭はぼやけ、色は青みを帯びると手稿に書きとめ、絵画でも表現しました。

 「空気遠近法」と「色彩遠近法」は、北方の画家ヤン・ファン・エイクなどが用い始めていましたが、ルネサンスの画家はまだ遠くに見えるものもはっきり描いていて、いち早く取り入れたのがレオナルドでした。

《聖アンナと聖母子》1502-16年 168.5×130cm 油彩・板 パリ、ルーヴル美術館

《受胎告知》の中央に描かれている風景も、遠ざかるに従って白っぽく、青く、そして急激に薄くぼやけています。このような表現は《モナ・リザ》や《聖アンナと聖母子》にも見られます。後世の画家たちもこの技法を取り入れ、現在では絵画教室でも教えているほど一般化していますが、レオナルドによって定着したといってよいでしょう。