大谷 達也:自動車ライター

1965年製のジャガー Mk2

ジャガーMk.2、XJC、E-TYPEに試乗

 このオートグラフではすでに2度リポートしているジャガーの新しい姿に関するプレゼンテーションが行われた前日、日本からイギリスを訪れたメディアを対象にした“ヒストリック・ジャガー”の試乗会が催された。「古きを温ねて新しきを知る」というわけだ。

 私がステアリングを握ったヒストリック・ジャガーは計3台。最初に乗ったのは1978年製XJクーペ V12で、続いて1965年製マーク2 3.8、最後にEタイプ・リボーンという特別な1台に試乗した。

左からジャガーXJ シリーズ2のクーペモデル(XJCとも)、XJS、E-TYPE、Mk2

 3台の印象を順に記していこう。まずはXJクーペ V12から。

 この時代のXJサルーンには30年くらい前に乗ったことがあるけれど、私の記憶のなかにあるXJサルーンは、ロールやピッチといったクルマの挙動がとにかく大きく、細いステアリングを繊細に操りながらクルマの姿勢を整える必要があった。それに比べると今回のXJクーペは足回りがはるかにソリッドで、この時代のクルマにしてはロールやピッチが起きにくい点がまずは意外だった。

 いっぽうで、ステアリングやシフトセレクター(シフトレバー)がか細く、人差し指、中指、親指の3本でつまむようにして丁寧に操作したくなる点は記憶のなかにあるXJサルーンとまったく同じ。分厚いクッションの快適な掛け心地も30年前と変わらないように思えた。

 V12エンジンの吹け上がり方は荘厳という言葉がぴったり。3段式トルコン型オートマチックはエンジンがフワーッと吹き上がったあとでおっとりとスピードが上昇していくタイプ。それでも0-100km/h加速は8.4秒との記録が残っているので、当時としては瞬足の持ち主だったに違いない。

 デザインはエレガントにして優雅。ソフトなレザーと磨き上げられたウッドをふんだんに使ったインテリアはイギリス製高級車の伝統を正しく受け継いだ作りだ。

ジャガー Mk2

 2台目はヒストリック・ジャガーのサルーンとして人気のマーク2。ジャガーとして初めてモノコック・ボディーが与えられたマーク1(デビューは1955年)に続くサルーンとして誕生したことから、この名がつけられた。1959年10月に発表されたマーク2は1967年に生産が終了するまでに累計8万3701台が世に送り出されたという。

 前述したXJクーペとは生まれた年が13年しか違わないけれど、乗った印象は大きく異なる。こちらは、名機との誉れが高い“XK”直列6気筒エンジンを搭載。しかも排気量3.8リッターで220bhp(約203ps)を発生し、最高速度は200km/hに到達したというから、当時としてはかなりの高性能サルーンだったはず。もっとも、現代の交通環境に身を置けば、手際よく運転してどうにか流れに乗れるといった程度のパフォーマンスでしかない。

 その理由の一端は、シンクロメッシュを持たないギアボックスのため、ていねいにシフトを行う必要があったからだが、その扱いに慣れてくると、機械と会話するようにしながら操作するのがなんとも味わい深く、いつまでも乗っていたくなるから不思議なものだ。

 パワーステアリングを持たないステアリングは操舵力が重いうえにステアリングギア比がスローで、こちらも乗り始めた当初は戸惑ったものの、エンジンやギアボックスと同じで、馴染んでくるとなんとも愛おしく思えてくる。

 丸みを帯びたエクステリア・デザインはクラシカルだが、極めて上品で洗練されている。インテリアに用いられるレザーやウッドはXJクーペよりはるかに多く、エレガントな雰囲気を醸し出しているが、ダッシュボード中央に並んだ4つの小径メーターや数多くのトグルスイッチがメカニカルな印象を醸し出すとともに、これが高性能サルーンであることを印象づけている。

 ちなみに、マーク2は1963年ヨーロッパ・ツーリングカー・チャレンジでタイトルを獲得するなど、モータースポーツ界でも大活躍したことで知られる。