「カメレオンスケーター」
高橋が村元に向ける敬意の中には、村元の表現力もあった。高橋に限らず、かつて周囲の人々がアイスダンスへの挑戦を勧めたのも、その後折々に村元の今後を考えアドバイスをおくったのも(高橋をパートナーとして勧めたのもそうだ)、村元の可能性を感じていたからこそにほかならない。そして高橋との3シーズンでも、表現力はいかんなく発揮された。
表現をどう培ってきたのか、村元自身はこう語る。
「難しいですね。育ってきた環境というか、学校がインターナショナルでいろいろな文化に触れてきたのもあったかもしれません。プレゼンテーションをして気持ちを伝えたり表現しないといけない授業もありましたし。音楽を聴くのが好きだしバンドにも入っていたんですね。音楽に限らずほんとうにいろいろ触れてきたのもあるとは思います。でも勉強すれば、それがイコール表現力のアップになるのかなというと……。私は大ちゃんに、その表現がどこから来るのか聞きたいです。昔聞いたことがありますが、そのときは回答はなかったかな」
そしてこう加えた。
「この間、大ちゃんに『カメレオンスケーター』と言われたんですよ。それがいちばん心に残ります。そういう風に思ってもらえているんだったら、それを武器にしていこうと思って、何でも表現できるカメレオンという感じで、ステータスを作っていこうかなと思っています」
やりきったからこそ、引退後は「新たなスタート」とも思う。
「ほんとうにありがたいことに、引退しても、アイスショーが続いていたり、スケート教室などイベントもあったのでけっこう忙しくさせてもらっていました。ただ、自分もまだスケーターとして人前にいるのも好きなんだな、という気持ちがあるので、そこは常に自分を磨いていきたいなっていう思いは変わらずです。
今は時間があるときに『スケーティングや表現をみてほしい』とお話があって、濱田(美栄)先生のところで生徒さんをみたりしています。教えるのも好きですけど、でもコーチはまだ早いなっていうのと、小さい子たちの振り付けをお願いされていて、やっぱり振り付けが楽しいので、どこまで広げていけるのかやりたいなっていう思いが強いです」
アイスダンスが注目されるように
同時に、打ち込んできたアイスダンスにも思いを寄せる。
「正直言うと、日本のアイスダンスは競技環境の点で大変だと思います。それは経済面もそうですし、やはり海外と比べるとコーチングスタッフの数だったり施設だったり、全然違います。どうサポートできるかは時間をかけていくしかないのかなと思います。
自分で言うのもあれですけど、大ちゃんのおかげで『かなだい』が誕生し、アイスダンスが少し注目されるようになって、でももう1個上に行けたらいいなっていう思いはありますし、ここで止まってほしくないなというのがあります。注目してもらうには正直、結果を出さないといけないというのは選手全員分かっていることだと思うので、そこでどう盛り上げていくか、アイスダンスに限らずフィギュアスケートを盛り上げていかないとなっていうのは今、感じています」
来年2月にはアイスショー「滑走屋」(会場・オーヴィジョンアイスアリーナ福岡)に出演する。2月10日から12日まで3日間、1日につき3公演が行われる。高橋大輔自身がプロデュースするショーであるという。
おそらくは従来とは異なるコンセプトを基軸とするショーは、どのような新たな世界を体現するのか。それはフィギュアスケートの将来を切り拓いていくための活動の一環でもあるだろう。村元も久々にソロナンバーを披露予定。どんなアートが披露されるか今から楽しみだ。
屈指の表現者として、そして新たな夢も持ちつつ、村元哉中は豊かに広がる将来を見据えている。
村元哉中(むらもとかな) 5歳のときスケートを始める。シングルのスケーターとして活動したあと2014-2015シーズン、野口博一をパートナーとしてアイスダンスに転向する。2015年6月、クリス・リードとカップルを結成し、2018年平昌五輪に出場。2020-2021シーズンよりシングルからアイスダンスへの転向を発表した髙橋大輔と新たにカップルを結成。2022―2023シーズンの全日本選手権で優勝し、世界選手権では日本歴代最高タイの11位。2023年5月に引退、プロフィギュアスケーター・アイスダンサーとして活動を始める。