文=松原孝臣
競技用のプログラムではないからこその試みも
オープニングからフィナーレまで、2人は躍動した。
8月25日から27日にかけて、KOSE新横浜スケートセンターで開催されたアイスショー「フレンズオンアイス」。それに先駆けて24日夜、公開リハーサルが行われた。
2006年から17年目の今回も、荒川静香をはじめ、国内外からスケーターが参加。その中に村元哉中と高橋大輔もいた。
今年5月、競技から退くことを明らかにしてから、いくつかのアイスショー出演を経て、この日を迎えていた。
その姿は、2人が結成以来培ってきた力と、未来を示す時間でもあった。
この日、2人はプロとして初めての、新しいプログラムを披露した。
『Birds, Makeba』。
振り付けは高橋のシングル時代のプログラム『マンボメドレー』や『道化師』を手がけたシェイリーン・ボーン。
「かっこいいダンサブルな、スタイリッシュなものを滑りたいなというところで、これはシェイリーンさんにやってもらいたいなと」(高橋)
2人が姿を現すと、場内に歓声が響く。やがて2人が始動する。
「彼女も久しぶりにアイスダンスの振り付けをしたということでかなり力を入れてくれて、振り付けも4時間くらいぶっ通しでやったり。前半がすごくジャジーでスタイリッシュな感じで、後半はアフリカンな曲で盛り上がるというか、勝手に体が動き出すような」(高橋)
「(振り付けのとき)シェリーンがとにかくいろんな動きをして、ほんとうに自由にいろんな動きをして」(村元)
複雑で途切れることがないかのような動きが躍動感とエネルギーを放つ。
衣装もまたそれを引き立たせていた。村元が語る。
「アフリカでも使われている柄とかを衣装さんに10個くらいデザインをばーっと探していただいて、その中から合う合わないを考えて5パターンを使ったのかな、5パターンのデザインを使ってマッチするように作られた衣装です」
カラフルな柄は、高橋、村元それぞれに左右非対称。角度に応じてさまざまな見栄えがするとともに2人が並ぶ、向かい合う、ポジションによっても千差万別に見える。エネルギッシュでもありスタイリッシュな演技を引き立たせていた。
何よりも新プログラムが示したのは、2人が結成してからの時間で培ってきた土台だ。演技の中で見せる距離感、呼吸、一体感はこの2人ならではだ。あらためて2人で築いてきた世界を伝えていた。
競技用のプログラムではないからこその試みもあった。高橋がジャンプを跳べば、村元はスピンを見せる。ソロとしての見せ場をも取り込んでいた。それはプロとなってこその新たな試みであった。