文=松原孝臣 撮影=積紫乃
2人で取り組む種目ならではの難しさ
2018年8月、クリス・リードとのパートナーシップに終止符を打った村元哉中は、アイスダンスをする相手を失い、「廃人でしたよ」と表す日々を過ごしていた。
いつかパートナーがみつかったときに備え、スケートをしておこう、滑っていようという気持ちは――。
「なかったです」
当時、姉の小月がタイでコーチをしていたことから、時折タイを訪ね、リンクに上がることはあった。ただ、容易に前を向けなかった。
「アイスダンスを続けたいけれどいい人がみつからないというのがいちばん大きかったです。それと、自分がほんとうに続けたいか、続けたくないかというところもありました。また大変な思いをするのか……いったんスケートから離れたいというのがありましたね」
アイスダンスに転向し、2人のパートナーとアイスダンスをする中で、2人で取り組む種目ならではの難しさも実感していた。
「お互いのバランスをどう合わせるか。例えば今日、私は100%体調がよくても相手が怪我していたり、体調が悪かったりすると本来の40%くらいがフルだったりする。そこをどう合わせるか、バランスを取るのかは難しかったですね。リフトとか技術を磨いていく分にはやるしかないんですけど、どういう風に伝えたら相手に伝わるのかコミュニケーションの部分も簡単ではありませんでした」
「大ちゃんいいんじゃない」
それでも時は過ぎる。おのずと変化も起こる。
村元は、あるスケーターを意識するようになっていた。それが高橋大輔であった。高橋は2014年の引退以来4年ぶりに復帰し、シーズンに臨んでいた。
きっかけは周囲の声にあった。
「コーチの濱田美栄先生だったり、田村岳斗先生だったり、『大ちゃんいいんじゃない』と軽いノリでしたけれどよく言っていて」
2人のコーチの言葉をはじめ、高橋の名前を耳にする中で、パートナーとして少しずつ像を結び始めた。何よりも高橋とアイスダンスをする将来は魅力的であった。尊敬するスケーターであり、アイスダンスでその魅力が発揮される可能性も感じていたからだ。
でも当の本人がアイスダンスをどう考えているのか分からないし考えなければいけない要素も少なくなかった。
「まず、大ちゃんのファンの方々がどう思うかを考えました。またシングルに復帰して1シーズン目、私も一ファンだったのでまた観られるうれしさもありましたし、戻ってきてアイスダンスをやるとなったら(高橋を指導する)長光(歌子)先生から離れることになるのも申し訳ないという思いもありました。それで最初は遠慮しちゃいました」
それでも一歩踏み出した。
「駄目だったら駄目でいい、なによりも聞いてみたいという思いがありました」