文=松原孝臣
4つの4回転ジャンプすべて回転不足
11月24・25日にフィギュアスケートのNHK杯が行われた。
男子シングルは鍵山優真、宇野昌磨の両名が他を圧する演技を披露。鍵山が優勝、宇野が2位の成績で終え、ともにグランプリファイナル進出を決めた。
両者の好演技の一方で、大会を終えて大きく報じられたのは、ジャッジ、つまり採点の部分だった。
宇野はフリーを終えたあとのミックスゾーンでの取材でこう話した。
「(試合を振り返って)プログラム全体が中国杯からやってきた練習をしっかりと出せた試合で、ほんとうに自分が考えてやってきた練習を体現できたよい試合だったと思います。点数とか採点とか、ほんとうに人それぞれだと思いますし、人がつけるものなので文句も言いたくないですし、僕の力及ばずなんだろうなと。僕の限界を感じた試合でした」
宇野はフリーで4本の4回転ジャンプを跳んだ。冒頭に4回転ループ、2本目に4回転フリップ。後半に入っては4回転トウループ-トリプルトウループの連続ジャンプ、続く4回転トウループが2回転となったことから最終ジャンプの予定を変えて4回転トウループ-ダブルトウループ。4回転ループを鮮やかに成功させたのをはじめ、ジャンプの精度をとってみても「よい試合だった」と振り返るのが自然なパフォーマンスを見せた。
ところがそれら4つの4回転ジャンプはすべて「q」マークがつけられた。qマークとは、4分の1回転不足しているとされたときのもので、つまり宇野の4回転ジャンプはいずれも回転不足と判断されたのである。結果、得点は伸び悩み、2位という結果へとつながることになった。
宇野自身、ジャンプに手ごたえはあっただろう。だからこうも語った。
「けっこうきれいかな、と思ったんですけど。厳しかったなというのは感じますし、採点のルールとか人がつけるものなので人それぞれだし、回転不足をつけるのはどうなんだという気持ちでもないし、言えることは今日のジャンプ以上を練習でもできる気がしないということです」
そのほかにも、ジャンプで回転不足をとられたことへの言及は続いた。優勝した鍵山の演技を心から称えつつ、そしてジャッジへの批判ではないことを表明しつつ慎重に、回転不足とされたことへの違和感を話した。
他の大会とは異なる際立った厳しさ
それは宇野のみの実感ではない。この試合を含むこれまでの演技を見てきた元スケーターなども含め、今大会での「厳しい」判定を感じる向きが圧倒的であった。
採点競技は、フィギュアスケートに限らず、人の目を介するため、しばしば採点のあり方が議論を呼ぶ。改善への試みもある。例えば体操の場合、富士通が選手の動きを測定する装置と約1400ある技を解析するデータベースから主に構成された自動採点システムを開発、今日ではオリンピックをはじめとする各大会で活用されている。
体操では種目によっては技の「1度」の角度の違いで得点が変わるルールになっている。それを人の目で判断できるのかへの疑問からスタートした。当初、審判側からは反対の声が多かったというが、選手や指導者など現場サイドからは歓迎の声が多く、何よりも公平性を希求する姿勢により実現した経緯がある。
そうした事例はあるにせよ、多くの場合は「人の目」にとどまる。NHK杯であらためて浮き彫りになったのは、人の目で判断すること、何よりも基準の統一感の問題であった。