すごいスケートが楽しい

「もともとジャンプが苦手なんですけど、体の変化もあって、周りの子たちがそれこそ3-3(3回転を連続で飛ぶコンビネーションジャンプ)を跳んでくる時代なのに全然跳べない。自信もなくなっていました。姉も(関西大学)卒業と同時に引退しました。国体が最後の試合だったんですけど、それで心に穴が開いたというか」

 そんなとき、「アイスダンスをやってみないか」「興味ない?」と声がかかるようになった。当時から、村元は「踊れる選手」としばしば語られていた。おそらくは適性と可能性を周囲の人は感じ取っていた。

「興味がなかったわけではないですけど、そこまで見ているわけでもなかったし」

 それでもトライアウトに誘われ、参加する。それは衝撃をもたらした。

「すごいスケートが楽しいというか、初めて誰かと手をつないで滑るのが全然シングルのときと違って」

 アイスダンスをしてみて、接触への怖さを語る選手もいる。

「まったくなかったんですね。リフトは怖かったですけど、それよりも『楽しいな』というのが大きかったです。ほんとうに、なんかもう出会ってしまったという感じですね」

 2014-2015シーズン、トライアウトにもいた野口博一をパートナーとしてアイスダンスデビュー。そのシーズンの全日本選手権を最後に解散した村元は、2015年6月、クリス・リードとともに進むことを発表した。

「そのときは、プレッシャーがありましたね」

 ソチ五輪に姉のキャシーとともに出場したのをはじめアイスダンスの経験が豊かで日本代表として活躍を続ける相手だ。「こんな私でいいのか」と悩んだ。それでも決断した。

「クリスとのトライアウトも、クリスの方から『滑ってみたい』ということだったので。クリスはそのときの動画を(コーチの)マリーナ・ズエワやマッシモ・スカリに送ったみたいで、『絶対にその子と滑りなさい』と言われたそうです」

 アイスダンスの世界では屈指のコーチであり振付でも活躍するマリーナ・ズエワ、世界選手権で表彰台に上がるなど第一線で活躍し指導者となったマッシモ・スカリの言葉もまた、村元のポテンシャルを見出していたことを示唆している。

 

クリスとともに、平昌五輪に出場

2018年2月20日、平昌五輪、アイスダンスフリーで演技する村元哉中とクリス・リード 写真=日刊スポーツ/アフロ

 村元はクリスとともに、2018年の平昌五輪に出場する。

「現地に行くまでは実感がなくて、現地で氷に乗って、五輪マークを観たときに『オリンピックにいるんだ』と感じました」

 団体戦で5位、個人戦で日本歴代最高タイの15位。その後の世界選手権では日本歴代最高の11位の成績でシーズンを終えた。

 だが、翌シーズンの本格的な開幕を前に、2人は解散する。発表は8月だったが、前月の7月にはアイスショー「ドリームオンアイス」に出演していたこともあり、驚きをもって迎えられた。

「あの『ドリームオンアイス』のとき、ちょっとぎりぎりのラインだったですね。その後アメリカに帰っても、葛藤というか、違う、というのがあって、解散になりました。後悔はしていないですけど、今考えたらもうちょっといい方向で終わらせたかったなというのはあります」

 パートナーがいなければ、アイスダンスはできない。解散後の時間をこう表現する。

「廃人でしたよ」

 そして言葉を続けた。

「5歳のときからスケートしかしてなかったので、何をしたいか分からない。アイスダンスを続けたい気持ちがあるけれど、パートナーもみつからない。何回か声がかかったりはしたんですけど」

 そのとき、あるスケーターが視野の中に浮かぶようになっていった。

 高橋大輔だった。(続く)

 

村元哉中(むらもとかな) 5歳のときスケートを始める。シングルのスケーターとして活動したあと2014-2015シーズン、野口博一をパートナーとしてアイスダンスに転向する。2015年6月、クリス・リードとカップルを結成し、2018年平昌五輪に出場。2020-2021シーズンよりシングルからアイスダンスへの転向を発表した髙橋大輔と新たにカップルを結成。2022―2023シーズンの全日本選手権で優勝し、世界選手権では日本歴代最高タイの11位。2023年5月に引退、プロフィギュアスケーター・アイスダンサーとして活動を始める。