「残念な二人の姉妹」
寺島しのぶは、父が人間国宝の尾上菊五郎、弟は尾上菊之助、母は女優の富司純子という芸能一家に生まれた。文学座出身で、映画・舞台・テレビで活躍。2010年のベルリン国際映画祭最優秀女優賞をはじめ、国内外で多くの受賞をしている。
「歌舞伎ファンの間では、『残念な二人の姉妹』が知られています。ひとりは、尾上菊之助の姉・寺島しのぶ、そして松本幸四郎の妹・松たか子(46歳)です。松たか子も、たくさんの受賞をしていますし、野田秀樹、串田和美、三谷幸喜などの舞台で素晴らしい芝居をし、ひとりで持っていってしまう実力と華がある。
ふたりとも明らかに役者として特別な才能を持っているのに、歌舞伎の家に生まれたら、男の子でなければ仕方がないとされる。
歌舞伎は、芝居だけでなく様々な芸事が基本となるため、役者の家が日本舞踊や音曲(楽器や唄)の家元を兼ねている場合も多いんです。市川團十郎の娘の麗禾ちゃん(12歳)が日本舞踊家として四代目市川ぼたんを襲名したように、女の子はそれで身を立てていくケースもあるけれど、歌舞伎役者にはなれない。
彼女たちは、どんなに悔しい思いをして育ってきたかと思いますし、ファンも『男だったらさぞいい歌舞伎役者になっただろうに』と残念なわけです」
「文七元結」は、初代三遊亭圓朝の人情噺をもとにした、歌舞伎でもおなじみの笑いあり涙ありの演目で、それを今回、山田洋次監督が脚本・演出を一新した。
「セリフも現代語で、いつも歌舞伎に出ていない役者にとっても比較的やりやすい演目でしょう。以前、主人公の娘・お久を当時十代だった松たか子が演じたのを観て、なんてかわいくてなんて上手いんだろうと驚きました。動画サイトにはいろいろな落語家の文七元結がアップされているので、聴き比べてから劇場に行くとさらに面白いはずです。なかでも志ん生の“角海老の女将”は絶品ですよ」