シリーズ「なぜ、CXが進まない?ものづくりDXを阻む企業に巣くう根深い問題」
第1回 DXを目指す企業が直面する「8つの問い」とは何か?
第2回 製造業のDXはここから始める、「可視化」のための具体的アクション
第3回 製造業のDXの成否はここで分かれる、「全体最適」を正解に導く3ステップ
第4回 製造業のデータは宝の山だ、「新価値創造のドア」を開けよう
第5回 清水建設・山本金属製作所から学ぶ、「デジタルツイン」で会社はどう変わる?
第6回 ゑびやに学べ、「デジタルツイン構築はどんな人がどう進めるのが正解か?」

第7回 “古き良き”が邪魔をする、CXを目指す会社が直面する根本的な課題とは
■第8回 働き方と企業はこう変わる、データドリブン経営の先に見えてくる未来(本稿)

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 前回は「CX(コーポレートトランスフォーメーション)を目指す日本企業が直面する、根本的な課題」について、企業内のあらゆる部門ごと、さらにはその部門を支える支援業務ごとに紹介した。

 取り組んでいただきたい「3つのアクション」では「日本企業ならではの課題」について、皆さんがそれぞれの視点から分析することを提案させていただいた。

 デジタル競争力において世界の中で後れをとってしまっている日本。もちろん企業だけに責任があるわけではないが、まずは身近なところからデジタル後進国になってしまった要因について考えることは自社のDX、CXを阻む要因を探るのに役立つだろう。

 皆さまは、どんな答えにたどり着いただろうか?

未来を想像し、創造する力――「未来のある1日」

 今から20年後の未来を想像してほしい。

 あなたはある製造業のチームリーダー。年は40歳。

 今朝も、目覚まし時計のアラームが鳴る前に、スッキリと目が覚める。

 スマホを手にアプリを開く。大丈夫。夜間もいつも通り、工場は稼働している。今週の出荷目標も無事にクリアできるだろう。

 もっとも、もし、何らかの要因で機械に不具合が生じていたとしても問題ない。すぐにAI(人工知能)が検知し、自動リカバリーシステムが作動する。人の手を煩わせることなく、機械はすぐに正常に動き始める。

 ほんの20年前。私が入社した当時はこんな状況は想像もできなかった。先輩社員が出社する前に機械が滞りなく動くよう点検、清掃、備品のチェックをし、朝から大量の作業をこなす。始業ベルと同時にラインが動き出す。あとはひたすら検品だ。経年劣化で停止する機械と格闘する日々だった。

 自社工場の様子が分かったら、アプリで支援先の工場の稼働状況もチェックする。次に、新規事業の進行スケジュールを確認する。どちらも問題なし、だ。

 仕事がフルリモートになったおかげで、家族と過ごす時間は劇的に増えた。

 目下取り組んでいるのは、産学共同で進めている新プロジェクトで、CO2削減に向けた新たな再生エネルギーの開発だ。これが達成されれば全世界から注目されるだろう。

 わが社がESG経営に本腰を入れ、環境問題に特化したものづくりにシフトして18年。ある日、社長が従業員全員を集め、こう言ったのだ。「過去の成功体験にすがるのではなく、未来のために、この会社をつくり変えようと思う」。一同どよめいたが、社長は真剣だった。その熱量に圧倒され、まずは社長を信じてついていこう、と覚悟を決めた。

 現在、わが社は自社工場で培ったノウハウをさまざまなアプリやシステムに転換して、国内外の企業に使ってもらっている。その使用料は本業の売上を遥かに超える。だからこそ、会社は未来への投資を惜しまない。

 未来への投資、それは「人」への投資だ。私が幸運だったのは無学だった自分を大学に通わせてもらったことだ。もちろん、全額会社負担、その間、給料もきちんと支払われた。ゼロから環境問題や情報工学、AIについて学び、自社でどんな新しい技術を開発できるか、研究に没頭させてもらったのだ。

「機械にできることは機械に任せろ。お前は人間にしかできないことをしろ。それは、誰も見たことのない、新たな価値を生むことだ」

 社長のこの言葉に何度励まされたことだろう。その期待に応えるべく、数年かけて新製品の開発に取り組んだ。そうして誕生した製品やシステムは今や、全世界の環境問題の改善に役立っている。

 今、気付いた。社長は「この会社をつくり変える」といっていた。だが、一番、変わったのは私自身かもしれない。私だけではない。社長以下、全員がトランスフォームしたのだ。だから、今があるのだ。

 さぁ、午後からは、母校の大学でプロジェクト会議だ。どんな研究データが集まっているだろう。そのデータをもとに人や環境のためのより良い技術を生み出そう。それが、わが社の、そして私の、存在理由だ。

 ・・・と、ここまでは仮定の話だが、このような未来が、もう、現実のものになろうとしている。

現状から未来を考えるのではなく、「ありたい姿・あるべき姿」を描いた上で、そこから逆算して“今何をすべきか”を考えるのが「バックキャスティング思考」だ。先行きが不透明な時代だからこそ、未来を思い描く力は武器だ

 「CXのゴールは何か?」という問いの答えを、私はいつも探している。それはもちろん、「生き残るためには、会社は生まれ変わらなければならない」という危機感を常に抱いているからだが、一方で「未来の会社の在り方」「未来の働き方」というものを、明るく希望に満ちたものと信じているからだ。

 ただ、生き残るだけではない。ただ仕事があることだけが、ゴールではない。新たな価値を創出し、世の中に貢献できていること。時間や場所にとらわれず、家族と共に幸福感を感じる働き方。使命感を胸に、情熱を傾け、誇りある仕事が楽しくて仕方がないこと・・・。「CX」が向かう先にはこんな未来が待っている。

 そんな未来を手に入れる方法があるとしたら、皆さんは知りたいだろうか? いや、ぜひとも知ってほしいのだ。

目指すは「データドリブン経営」

 私の中には明確な答えがある。それが、「データドリブン(Data Driven)経営」だ。

「データドリブン経営」はデータをもとにした意思決定を可能にする。それによって、会社の在り方や働き方そのものが大きく変わる可能性を秘めている

 言葉自体は、読者の皆さまは既にご存じだと思う。簡単に言うと「データをもとにした経営」である。蓄積されたデータの精度が上がり、デジタルツイン上でのシミュレーションを繰り返す。さらにはAIの導入により、経営やマーケティング、さまざまな戦略において、データをもとに「意思決定」が可能になる。

 日本企業における普遍的な課題の一つに「意思決定の遅さ」が挙げられる。一つの決議をとるのに、何層にも渡る組織の承認を得なければならない。この無駄な時間が日本企業の生産性を下げる一因になっていることは、読者の皆さまもお気付きだろう。

 先に描いたような「未来の働き方」では、人はいちいち意思決定のための時間を割く必要がなくなり、結果、「会社」という「場」に捉われることなく、もっとフレキシブルな環境の中で新たな価値創造にまい進できる。会議のための会議やコンセンサスを得るための根回しは、もう必要ないのだ。

 下の図は、データドリブン経営により、スマート化した未来の企業像である。

 これをもとにデータドリブン経営をどのように進めていけばよいかを紹介していこう。このレベル1からレベル7までを階段を上るように進んでいけば、データドリブン経営によりCXの未来像に到達できる。