時代に合わせて評価は変わる
第3章「彫刻」では、荻原守衛《北條虎吉像》が見どころ。同作はブロンズ像も制作されたが、重文に指定されたのは今回展示されている石膏像のほう。石膏像はブロンズ像に比べて、もろく壊れやすいが、そのぶん生命のゆらめき的なニュアンスが醸し出されているような気がする。どうして石膏像だけが重文になったのか。そんなふうに思考を巡らせてみる時間が楽しい。
左から、初代宮川香山《褐釉蟹貼付台付鉢》1881年(明治14)、初代宮川香山《黄釉銹絵梅樹図大瓶》1892年(明治25)、三代清風与平《白磁蝶牡丹浮文大瓶》1892年(明治25) すべて東京国立博物館蔵 通期展示
最終章「工芸」には初代宮川香山(こうざん)《褐釉蟹貼付台付鉢(かつゆうかにはりつけだいつきばち)》が出品されている。壺に本物そっくりの蟹が張り付いており、グロテスクな印象を受ける。実際、以前は日本趣味を過剰に表現した“欧米向け土産物”というレッテルを貼られ、美術品としての評価はないに等しかった。だが、1990年以降はこうした工芸品の再評価が進み、「超絶技巧の名品」として脚光を集めている。そんな時代の後押しを受け、《褐釉蟹貼付台付鉢》は2002年に重要文化財の指定を受けた。
時代が変われば、評価も変わる。100年後、現在の重要文化財が国宝に格上げされているかもしれない。重文は国宝になれない作品ではなく、なる可能性を秘めた素晴らしい作品群。展覧会を見て、そう実感した。
