次々に現れる傑作に目が離せない

横山大観 《生々流転》(部分) 重要文化財 1923年(大正12) 東京国立近代美術館蔵 通期展示

 会場を巡ると、有名作品が次々に現れる。第1章「日本画」では、全長40mに及ぶ横山大観の絵巻《生々流転》が序盤の見どころ。山奥の一滴の水が渓流となり、やがて大河となって海へと注ぎ、嵐とともに龍となって天に還るという水の輪廻を表した壮大な作品。長大であるため一度に全場面を見られる機会は少ないが、今回の展覧会ではすべての場面を一挙公開している。

今村紫紅《熱国之巻》1914年(大正3)  東京国立博物館蔵 展示期間:朝之巻(写真)は3/17〜4/16、夕之巻は4/18〜5/14

 ほかにも、インド旅行に基づいて描かれ日本画の新しい可能性を切り拓いた今村紫紅《熱国之巻》、琵琶湖の湖面のきらめきを題材に抽象画のような新しい表現を試みた福田平八郎《漣(さざなみ)》など、画家のチャレンジ精神が感じられる名品が目白押し。長く行方がわからず「幻の名作」とされてきた鏑木清方《築地明石町》は、2022年度指定の最新の重要文化財。美人画の名手として知られる清方の画力を堪能したい。

 第2章「洋画」もまた逸品揃い。高橋由一《鮭》、青木繁《わだつみのいろこの宮》、関根正二《信仰の悲しみ》。個人的には岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》が好きでたまらない。見るたびに幼少期の記憶が呼び起こされるような不思議な感覚を覚えるのだ。

高橋由一《鮭》1877年(明治10)頃 東京藝術大学蔵 通期展示

 今回、東京国立美術館副館長の大谷省吾さんに、「何の変哲もない坂道だが、遠近法を微妙にずらして用いることで、坂道が迫ってくるような異様な存在感が画面にもたらされている」と解説していただいた。なるほど。私が幼少の頃に住んでいた家の前には急で長い坂道があった。その坂道を前にして感じていた威圧感が、岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》を見ると蘇ってくるのだ。この絵に惹きつけられる「秘密」が解けたようで、何ともすっきりした気分になった。

岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》1915年(大正4) 東京国立近代美術館蔵 通期展示