KDDIでは、新中期経営戦略のなかで打ち出した6つの新重要課題のうちの1つに「ガバナンス強化によるグループ経営基盤の強化」を掲げている。5Gを中核にビジネス領域を広げる同社では、事業の多様化と同時にグループ会社が増加しているためだ。同社はまず会計業務改革に取り組み、シェアードサービスによってガバナンスを強化しつつ、グループ会社の増加に対応しサービスも拡充、給与や購買といったコーポレートオペレーション業務も合わせて推進している。

試行錯誤のなか、着実に業務効率化とガバナンス強化を進める

和久 貴志/KDDI コーポレート統括本部 コーポレートシェアード本部 副本部長

1971年東京都生まれ。1994年第二電電(現KDDI)株式会社入社。新人から財務・経理業務を20年以上現場で実践。その間、スクラッチの会計システム開発に3年間携わり、出向先のケーブルTV会社「JCOM」では財務部長・経理部長を歴任。2022年より現職。現在はKDDI本体を含むグループ全体の経理シェアードサービスの垂直立ち上げに従事しながら、会計に連携するコーポレート業務も部門横断でDX推進。データドリブンによるグループ全体の業務効率化とガバナンス強化の二刀流を目指す。

 通信大手のKDDIは5Gによる通信事業を核に、金融、DX、エネルギー、地域共創、LX(ライフトランスフォーメーション)など、事業領域を拡大してきた。それに伴い、グループ全体の企業数は、国内外合わせて200社に上っている。

 グループ会社が急増することに伴い求められているのが、ガバナンス強化によるグループ経営基盤の強化だ。特にリスクマネジメント体制を強化するためにシェアードサービスの活用を推進してきた。会計業務のシェアードサービス受託数は、2019年度末時点では8社だったが、2022年度末時点には28社にまで増えた。

進捗は順調に見えるが、これまでの歩みは順風満帆ではなかった

 シェアードサービス業務の体制面では、2013年にKDDI本体から業務を切り離して子会社型による経理シェアードサービスセンターを目指したが、業務の方針が固まらず、経理業務に手が回らないグループ会社の支援に留まった。

 同じ頃、KDDI本体でも異変が起きていた。コーポレートシェアード本部副本部長の和久貴志氏は「M&Aが恒常化していたため、新会社へのCFOや経理要員の派遣が急増し、本体の経理部がリソース不足に陥ったことがあります。業務がひっ迫したことで、若手社員のモチベーション低下を招いてしまう結果となりました」と振り返る。

 そこで2018年からグループ内で分散している会計業務を再整理、ヒト・モノ・カネのリソースを集中化して効率化を図り、ガバナンスを強化するために子会社ではなく、KDDIが中心となる本体型の経理シェアードサービスセンター構想を立ち上げてスタートさせた。それが現在の給与や購買を含むコーポレートシェアードサービスセンターにつながっている。

 一方、利用するシステムについても常に見直しを行ってきた。「KDDI本体は今まで、自分たちの業務に合わせてオンプレミスで開発した会計システムを利用してきましたが、IFRSに対処できないことなどへの危機感からパッケージを導入し、システムに合わせて業務の効率化を図りました」と和久氏。

 しかし、会計のうち採算管理システムのクラウドサービス導入でつまずいた。

「クラウドシステムはすでに他社導入実績があり、PoCも実施してから導入したのですが、データをインプットしてもアウトプットを指示しても反応がないまま終了する“サイレントエラー”が頻発したのです。新システムで部門別採算管理がさらに精緻化され、想定以上にデータ量が膨大になってしまったことが主な原因でした」(和久氏)。

 サレントエラーを回避できるようになるまで、相当なクレームがあったという。