2020年、オフィス中心から在宅勤務中心の働き方へシフトした株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)。きっかけとなったのはコロナ禍だが、その背景には、以前から進めてきたクラウド活用やデジタル化の取り組みがあった。生産性を落とすことなく、多様性のある働き方を支える同社のIT戦略はどのようなものか。ここでは経理・バックオフィス領域における業務効率化に焦点を当てて、同社のIT本部IT戦略部部長の大脇智洋氏が解説する。

※本コンテンツは、2022年7月26日に開催されたJBpress/JDIR主催「第4回ファイナンスイノベーション~企業変革をけん引する経理・財務部門の実現~」の特別講演3「DeNAの経理業務領域におけるDXとそれを支えるIT戦略」の内容を採録したものです

これまでの取り組みを振り返る――グローバルでのシステム統一と業務標準化

 1999年にインターネットサービスを提供する企業として創業したDeNAは、ゲーム事業を軸に、ライブストリーミングの「Pococha」、ヘルスケアサービスの「kencom」、クラウドRPAの「Coopel」など、新たな事業に次々とチャレンジしてきた。「こうした事業スピードの速い当社を支えるために、私たちIT部門は、さまざまなIT環境を提供してきました」と語るのは、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)IT本部IT戦略部部長大脇智洋氏だ。

 同社は2010年に米国のゲーム開発会社を子会社化し、海外展開を進めた。この時、経理領域では海外を含む子会社の業績の把握が大きな課題となり、IT戦略部はグローバルでのシステム統一を急いだ。「クラウド活用」を重視しながら、Google WorkspaceやワークフローのKintone、会計・人事システムのNetSuite、経費精算のConcurなどをグローバル規模で導入。さらに2018年ごろからは「コンプライアンス・リスク管理の強化」という要請に対応。それまで各社・各部門でバラバラに使っていたSlackを全社統一し、端末管理やセキュリティシステムを導入。Zoomも標準ツールとして導入した。

 上図は、同社がグローバル標準とする会計関連業務のフローだ。稟議申請、発注、債務、債権の申請ではクラウドERPのNetsuit。その後の支払・入金管理、原価計算や財務会計の帳票類は内製で、スクラッチ開発したものを使っている。固定資産管理、立替経費精算、管理会計帳票はパッケージだ。また経理業務は本社に集約しており、大部分の子会社は、上図の左側だけを担う。子会社で経理業務を行う場合も、ほとんどが上図と同じプロセスにのっとっている。

「本社に集約した経理業務の一部は、BPO(Business Process Outsourcing)で外部委託を進めています」と大脇氏は補足する。DeNAの多彩なビジネス展開の背後で、同社IT戦略部はこのような環境を構築しながら、働き方改革や業務効率化に向けた取り組みを進めてきたのだ。

リモート型経理の実現――働き方改革を支えた3つの電子化とリモートワーク環境

 2020年2月、新型コロナウイルスが蔓延し始めた中で、同社では週2回というルールで運用していたリモートワークを週5回まで可能にした。続く3月下旬には、社内の対策本部がリモートワークを強く推奨し、98%の社員が在宅勤務を開始した。急なパンデミック下でスムーズにリモートワークに移行できたのは、「ビジネスチャットツールであるSlackと、ウェブ会議ツールのZoomをすでに導入済みだったことが大きい」と大脇氏は振り返る。

 日本の国内企業全体で経理・財務部門を見ると、決してリモートワークの導入が進んでいるとはいえない。2021年の調査では、未導入の企業が半数にも上っている。(2021年:LayerX「経理・財務部門におけるクラウドサービス利用の実態調査」)。だが、いち早くリモート環境の整備を進めてきた同社では、2020年の緊急事態宣言下にあって、連結決算のように密な連携が必要な業務もSlackやZoomを活用しながら、ほぼフルリモートで完結させることができたという。

 さらに同社IT戦略部は2020年以降も、経理業務において「出社しなければできない業務をなくすこと」に引き続き注力してきた。具体的には「契約書の捺印・署名」「請求書の支払処理」「経費精算の領収書提出」の3つに集約される。つまり「書類のペーパーレス化・電子化」だ。

「2020年5月には、電子署名ツールAdobe Signを導入しました。相手先の事情もあるため、初年度の電子化率は2~3割でした。2022年に入って、ようやく5割を超えたところです」と語る大脇氏。契約書の電子化については、世の中の電子化への理解が浸透するにつれて、社内でも進んでいくといった進捗だ。

 請求書は、「郵送で受け取る」「メールでPDFを受け取る」「電子請求書プラットフォームでPDFを受け取る」という3パターンがあり、これまでは、いずれの場合も紙に印刷して経理に申請する必要があった。これを2020年11月にルールを改訂し、PDFで受け取った場合はそのまま会計処理できるようにした。この結果、半年で8割が電子化に移行。相手の都合もあって紙での郵送はどうしても残るが、それもいずれ電子帳簿保存法に対応しながらペーパーレス化する方針だ。

 経費精算についても、基本的には領収書を経理へ提出することが必要だった。これを2021年4月に、「コーポレートカードで決済し、かつ3万円以下の場合には領収書は提出不要」というルールに変更した。これは、American Express(アメックス)カードとConcurの連携を利用したものだ。だが、その後の社内調査でコーポレートカードの契約者は17%程度にとどまっていることが分かった。そこで、より多くの人に使われているQRコード決済PayPay(ペイペイ)での経費精算を、現在試行中だ。またスマートフォンで撮影した領収書をAI-OCRで読み取りデータを自動作成する、Concur Expense ITの導入にも取り組んでいるという。

「将来的には、領収書の画像データをもっての経費精算処理を目指します。領収書の提出のために出社する必要がなくなるだけでなく、入力ミスもなくせるというメリットがあります。いつでもどこでも、経理業務が可能な環境を構築していきます」

 2022年の8月には、税務担当者として地方在住者が入社した。フルリモートワークを前提にして、優秀な人材を全国から採用できるようになることも、リモート型の経理業務の大きな利点だと大脇氏は示唆する。