かつて世界経済を牽引した日本企業が、復活を果たすためには何が必要なのだろうか。ベストセラー書籍『DX の思考法 日本経済復活への最強戦略』の著者で、東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授、経営共創基盤 シニア・エグゼクティブ・フェローの西山氏が語るのは、日本企業が慣れ親しんできた「タテ割り」組織からの脱却、そして、DXならぬ「IX=産業丸ごとの転換」の重要性だ。
日本企業の経営トップはどのような視座を持ち、どんな思考法を身に付けるべきか、同氏に話を聞いた。
デジタルは「変革のトリガー」に据えるべき
――DXを経営の最重要テーマとして取り組む企業が多い昨今ですが、ご著書では「産業変革=IX(Industrial Transformation)」について紹介されています。この言葉は、どういった意味を持つのでしょうか。
西山圭太氏(以下敬称略) 経営者の間では「デジタルはツール(道具)として使うもの」とよく言われます。しかし昨今、デジタルが引き起こしていることはツールの次元を超えたものです。結果として「ビジネスのあり方」自体を大きく変えようとしています。
例えば、金融業界。かつては「銀行業」を中核としていました。しかし、電子決済の登場でキャッシュレス化が進み、多種多様な支払い方法を提供する「決済業」を中心とした業界へと変わりつつあります。
こうした状況になると、たとえ自社がDXを進めなくても、産業全体はデジタルを起点にどんどん変革が進んでいきます。著書ではこうした事象を「IX」、つまり「産業丸ごとの転換」と表現しました。
これまで、IXはサービス業の周辺で広まりを見せてきました。しかし今や、製造業や建設業といった「リアルな現場を持つ業界」でも見られる動きです。例えば製造業の新製品開発の現場では、企画、設計、部品の調達、製品の製造といった工程があります。これら全てがサイバー空間上で実現できるようになるわけです。製品や部品の設計もサイバー空間上のデータを用いて、かつ複数の企業が協働で行うようになるでしょう。
日本企業では長らく、取引先との長期的な関係構築を築きながら「あうんの呼吸」でお互いの要望を汲み取り、ものづくりを進めてきました。しかし、製造プロセスがサイバー空間に移行すると、「一定の信頼」と「製造能力」のある人ならば誰もが部品製造に関わる余地が出てきます。新製品の企画から部品の設計、必要な設備の設計、受発注、生産計画の管理、請求、決済など全ての工程をデジタル化することになるからです。
デジタルは便利なツールであるだけでなく、それを使う企業自身、そして産業全体の構造すら変えてしまう。だからこそ、私たちは従来のビジネスの概念にとらわれずに、ビジネスに取り組まなければなりません。