「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営的な視点から考え、かつ戦略的に実践することを指す。だが、なぜ今あえて健康経営が必要とされているのか。そして健康経営は、本当に企業価値を高めることができるのだろうか。「健康経営銘柄」などで健康経営の普及に従事してきた、レオス・キャピタルワークス代表取締役会長 兼 社長・最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と、この分野を専門に数々の著作を持つ山野美容芸術短期大学教授の新井卓二氏が、「企業戦略としての健康経営」について語り合う。

※本動画コンテンツは、2022年10月26日(水)に開催されたJBpress/JDIR主催「第3回 戦略総務フォーラム」の特別対談3「企業戦略として取り組む『真の健康経営』~社員の健康/ウェルビーイングが企業価値となる時代へ~」の内容を採録したものです。

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「健康経営」が日本企業に広く受け入れられている理由とは?

新井卓二氏(以下、新井) 私が健康経営の研究を始めた6年前には、率直に言ってここまで広がると思っていませんでした。藤野さんは、経済産業省の次世代ヘルスケア産業協議会の健康投資ワーキンググループで委員を務められていますが、この間の変化をどう見ていますか。

藤野英人氏(以下、藤野) 経済産業省からお話をいただいたのが8年ほど前です。当時は「仕事は健康を消耗してパフォーマンスを得るもの」という風潮があり、以前から私はこれを疑問に思っていました。そこで、健康経営を考えることは非常に意義があるのではないかと、健康経営の概念を広めるいわゆるスタートアップチームに参加したのです。

健康経営の概念自体は1990年にアメリカで生まれたものですが、現地ではそれほど広まらず、現在はSDGsやダイバーシティ&インクルージョンなどに包含されています。その点、日本の経済産業省が健康経営を持ってきたのは、目のつけどころが良かったと思います。

東京証券取引所と組んで、模範企業を表彰するかたちで、女性活用の「なでしこ銘柄」、「攻めのIT銘柄(現DX銘柄)」に続いて、2015年に「健康経営銘柄」を創設しました。その頃、経営者にアンケートを採って「健康経営は誰の仕事か」と聞くと、「社長が健康経営の主体である」と答えたのは5%前後でした。それが最近の調査では、6~7割になっています。スタートアップの1つの成果が出たと思っています。

新井 健康経営が日本企業に受け入れられたのには、どのような理由があるとお考えですか。

藤野 まず健康は、全ての人の重大関心事だということが大きいです。それから、少子高齢化で新入社員の数も減る中で、社員の戦力化が課題になってきたこと。また「ブラック企業」という言葉が広まって、「社員を大切にする会社かどうか」ということに、就職内定者だけでなく、その親も注目するようになりました。

当然、会社側も、社員の健康を重要視することが、採用にもその後の戦力化にもつながっていると分かってきたのです。その一方でESG、SDGs、ダイバーシティといった新しい概念が入ってきて、これらの社会的な流れと合流しながら、今のブームになったのだと思います。