コロナ禍で進んだリモートワークの見直しが始まり、多くの企業が生き残りをかけて生産性を上げる働き方を模索している。働く側の私たち一人一人も、仕事に何を求めるのか、仕事を通して社会とどうつながっていきたいのか、「働く」ことの意味を問われている。
そんな時代に、企業と求職者をつなぐ人材サービス業界は何を考え、どういう取り組みをしようとしているのか。アデコの執行役員 Chief Strategy Officer 兼 Business Planning本部長の西村正一氏、同Business Planning本部Senior Acceleratorの槁本紀子氏に聞いた。
ワークエンゲージメントとビジョンの関係
これからの時代、何が起こるか分からない。そんな思いを抱えている人は多いのではないだろうか。コロナショック、緊迫する国際情勢、円安と物価高、普通に生活する私たちにとっても意識を変えざるを得ない状況になっている。
これは「働く」という点でも同じだ。アデコの西村氏は「日本の企業、日本の社会に起きている労働人口減少の流れを直視し、それに対し、何が根本的な解決策となるかをまず考えることの重要性」を指摘する。そして、その鍵になるのは「日本の労働生産性の低さ、働いている割に付加価値を生み出せていない現状」だという。
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西村 今まで通り、「人材サービス業界としてとにかく職を生み出す」とがんばり続けるだけでは労働人口の減少、生産性向上など、日本社会が直面する課題の根本的な対策にはならない。そこで、われわれが今、重点を置いているのがワークエンゲージメントです。どういう気持ちで皆さんが働いているのかという人の気持ち、毎日生み出していくパワーに着目しようとしています。
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要は、この状態のまま働きたい求職者を企業に紹介することをどんなに続けても、課題は解決されない。生き生きと働く人をどう増やしていくかが必要だと考えたのだ。これはアデコが2016年から中期経営計画として進めてきた「キャリア開発が当たり前の世の中を作る」というビジョンと、そのための取り組みを通し、行き着いたことだ。
実際、アデコでは2016年から「キャリアコーチ」という専門職を新たに設け、一人一人の求職者に専属のキャリアコンサルタントを立て「仕事を通してどう人生の時間を過ごしていきたいのか」ということに向き合ってきた。今では当たり前にキャリア開発の必要性が語られるが、当時、職を探すには求職者は懸命だったし、企業も採用に注力していたが、キャリアを主体的に考え、向き合っていこうという社会ではなかった。
そうした中、アデコでは業界として取り組むべき付加価値としてキャリア開発にチャレンジしてきたし、同一労働同一賃金、無期雇用といった制度課題に対する取り組みについても率先してきた。
こうした2016年~2020年の取り組みを走り切り、次の5年に向けて中期経営計画を立てようというとき、これまでの取り組みに成果が出たので次の取り組みに進もうと、注目したのが「ワークエンゲージメント」ということになる。
ここで西村氏が示すのが、次の調査だ。
アデコの調査によると「生き生きと働いている」と答える人には「ビジョンを明確に持っている」人が多いことが分かった(次の正社員・派遣社員を含む約3000人を対象とした2020年の調査)。
そこで、アデコが次の5年の中期経営計画のビジョンとして掲げたのが「人財躍動化を通じて社会を変える」。そこには、日本の多くの人たちは生き生きと働いていないのではないかという強い問題意識にあった。