クライマー山野井泰史氏との共通点

──沢木さんが西川さんの帰国後の日常も含めて書いてみたいと思ったのは、単調な日々の暮らしに共感したからということでしょうか。

沢木 共感というより、そもそもなぜ彼のことを書きたいと思ったかというと、かっこいいんですよね。

──西川さんは、かっこいいですか。

沢木 かっこいいじゃないですか。彼の2つの人生は確かに極端に違っていました。行ったことのない場所に行きたくて旅を続ける日々と、食べるために364日働いて同じことを繰り返す日々。その2つの人生には、僕らから見ればものすごく大きな落差があります。けれども彼の中には、落差があるという意識は全然なかったんですよ。2つの人生を、どちらがいい、悪いと価値付けせず、淡々とまったく普通に生きていた。それはむちゃくちゃかっこいいじゃないですか。

──ちょうど今、沢木さんの著書『』の主人公、山野井泰史さんのドキュメンタリー映画(『人生クライマー』)が上映されています。山野井さんも、クライマーとしてすごいことをやりながら、基本的に目立つことを好まずひっそり生きている人ですよね。

沢木 会ってみると普通の人なんですよ。すごいことをしているし、自分でもすごい能力を持っていることは自覚していると思うんです。でも、自分の能力や生き方をみんなにアピールしようとはまったく思っていない。自分が好きな山や崖に登れればそれでいいと思っているんです。西川さんも同じで、声高に自己主張しない人だったと思います。

──沢木さんが惹かれる人の共通点ですね。

沢木 そうですね。山野井さんもかっこいいと思うし、西川さんもかっこいいなと思う。僕はそういう人たちを、かっこいいでしょう? って読者に提示しているんです。だから読んでくれた人が、わあ、すごいなと驚きながら、でもかっこいい人だなと感じてくれると嬉しいですよね。

天路の旅人』(沢木 耕太郎著、新潮社)