日本を牽引するエグゼクティブにお気に入りの七つ道具を伺う連載。ご登場いただくのは2012年に生まれたロースタリーカフェの先駆け、The Cream of the Crop Coffee 清澄白河ロースター(ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー)のオーナーである田島雄志氏。セルジオ・ロッシやジョン・ロブ、ピエール・マルコリーニなどを日本に持ち込み、ブレイクさせた仕掛け人でもある氏が愛する逸品とは?
写真=鈴木克典 文=金井幸男 編集=名知正登
インポートビジネスのパイオニアが歩んできた道
美術館やカフェが充実し、散歩スポットとして愛されるTHE下町、清澄白河。サードウエーブコーヒーの上陸拠点となったことから注目され、特にイチ早くオープンしたThe Cream of the Crop Coffee 清澄白河ロースター(ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒー)は遠方からもファンが訪れるコーヒーのメッカである。
オーナーは田島雄志氏。数々のインポートビジネスを成功させた人物だ。
田島氏曰く「私が起業したのは29歳の時。それまでは六本木にあったスウェーデンセンター内の貿易会社に勤めていました。ゴーセンブルグが本拠で社長は本国のセーリングチャンピオン。そのため、ヨット関係のアイテムを中心に買い付けしていました。それにトランシーバー用部品の輸出。北欧は6~7人のパーティで行うハンティングが盛んで、携帯電話がない時代はトランシーバーがフィールドでの通信手段でした。我々にはあまり馴染みのないツールですが非常に需要が高く、丁寧に作られた日本製のパーツが重宝されたのです」とのこと。
イギリスの大学を卒業後、4年間はサラリーマンとして勤務。27歳頃に自分が本当にやりたいことに気付いたそう。
「社長になりたいのだなって(笑)。ただ指示に従うのではなく、自ら決定して動きたい性分なのだと自覚しました。独立は六本木の三河台ハイツ、ワンルームからスタート。私が入る以前には野坂昭如さんが暮らしていて、出世アパートと噂されていたスポットです」
1980年代初頭の日本は好景気前夜。まだ貿易の軸は輸出であった。
「それに輸入には元手がいるでしょう? 何も持たない私には輸出しかできませんでした。ただ、イギリス留学時代のホストファミリーが当地の巨大小売グループ、マークス&スペンサーへのメジャーなサプライヤーでした」
独立して数年経つと日本の経済力が著しく向上。反対にヨーロッパの落ち込みが目立つ時代に。
「中国や香港に旅行する日本人が急増した頃です。貿易も輸出から輸入に重点が移っていきました。ある程度の資金が準備できた私は学生時代と前職の人間関係を生かし、ヨーロッパからのインポートビジネスを開始。そして、セルジオ・ロッシと出会います」
今やイタリアを代表するシューズブランドのセルジオ・ロッシだが、当時はまだ未発展の段階。日本はもちろん、イタリアにも店舗がなく、世界的にも知られる存在ではなかった。
「イギリスのホストファーザーに会いに行く途中、立ち寄ったパルマで偶然ロッシの靴を見かけました。可愛い靴があったと話の種程度の軽い気持ちで伝えると、後日セルジオ・ロッシから連絡が。ぜひ日本で売ってほしいと言うのです」
マークス&スペンサーに勤めるホストファーザーが2人を繋げてくれたのだ。セルジオの息子、ジャンヴィト・ロッシの来日時にはアテンドもして、比較的スピーディーに代理店契約締結となった。
元々優れたポテンシャルを秘めていたセルジオ・ロッシは、高度経済成長真っ只中の日本で大ヒット。現在も憧れブランドとして支持されるほどお馴染みの存在となる。
「続いてエドワード・グリーンを紹介され、日本展開のお手伝いを。以前から私自身が愛用していたブランドでしたからワクワクしました。ビジネス云々より、良いものを作ろうという気概に応えたかったですね」
無事にエドワード・グリーンも成功し、傘下のジョン・ロブまで手がけるように。
「当時のジョン・ロブはデザインこそ秀逸でしたが、踵が抜けやすく履きにくかった。私は木型から作り直さないと売れないと本国の社長に進言。お互いに協力してブランドを成長させました」
ほかにもデルヴォーをはじめ、様々なブランドが田島氏によって日本に定着。近年ではベルギー王室御用達ショコラティエ、ピエール・マルコリーニが知られている。
「日本初出店は2001年、銀座にて。実はこれ、ピエール・マルコリーニの海外進出第一号でして、本拠地ベルギーでもあまりメジャーではない銘柄だったのです。本格上陸前に百貨店で行ったポップアップショップも閑古鳥が鳴くほど。ところが、テレビで紹介されたのをきっかけに大ブレイク。バレンタインデーには行列が当たり前のお店に躍進しました」
現在の田島氏が手がけるのはザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒーのほか、スキンケアブランドのマカセーヌ、“セーブ ジ オラウータン”を掲げた石鹸「U1R」など。
「ピエール・マルコリーニのカフェを企画するにあたって、色々とコーヒーについて勉強を。すると、自分自身が美味しいと思うコーヒーを追求したくなり、ザ クリーム オブ ザ クロップ コーヒーに至りました。そもそも自分で決定したくて起業したのですから、オリジナルを生み出したくなるのは当然なのかもしれません」
2018年には丸の内に手土産スイーツ専門ブランド、カドーをオープン。こだわりのブランド、アイテムを取り扱っている。
「私が携わってきたブランド、アイテムはいずれもビジネスを度外視した、職人気質が感じられるものばかり。儲けよりも品質を重視し、品性良く。自分が売った喜びを求める商人だからでしょうね、作る喜びを尊ぶ職人さんに憧れるのです。プライベートの愛用品も同じ感覚。華美なものは苦手で、目が¥マークになっていない人たちが作るアイテムを選んでいます」