細見美術館・特別展「虫めづる日本の美」の展示作品を選定した養老孟司氏

 一体なぜそんな奇妙な姿形と機能が生まれたのか? 人知を超えた虫の奇態にこそ、先が見えない時代を私たちが生き抜くためのヒントが隠れているのかもしれない。
 2022年1月30日まで(好評につき会期延長とのこと)細見美術館(京都市左京区)において特別展「虫めづる日本の美 養老孟司×細見コレクション」が開催されている。細見美術館の収蔵品を中心に、虫をモチーフとした日本の絵画・工芸品・現代美術作品約70点を紹介する展覧会だ。展示作品を選定したのが、無類の昆虫愛好家、昆虫学者として知られる医学者・解剖学者の養老孟司氏。養老氏が現代社会に抱く違和感と共鳴する、虫の摩訶不思議な進化の様相とは?(鶴岡 弘之/JBpress編集長)

きれいに標本をつくろうとする日本人

──「虫めづる日本の美」展では、会場に入ると、養老さんがつくったゾウムシの標本がいきなり展示されていて驚きました。博物館ならわかるのですが、美術展で虫の標本を展示するというのは奇抜ですね。

養老孟司氏(以下敬称略) 標本もアートをつくっているのと同じようなものなんです。絵を描いたり彫刻をつくるのと似ています。

──「作品」なんですね。

養老 そうですね。だから凝る人は徹底的にきれいにしようとする。ちょっとでも左右対称じゃないと「気に入らない」なんて言ってね。いわゆる「科学」という軸ではないんですよね。特に日本は凝る人が多いんです。つくり方がなにか日本文化特有で、凝るんですよ。標本をつくる人の多いヨーロッパではあんまり凝らない。

「ホウセキゾウムシの標本(部分)」