──具体的にどんなところが違いますか。

養老 典型なのは、日本人は甲虫ならば足を伸ばして左右対称にするところです。図鑑式の標本にする。ヨーロッパ人はまずやらないですね。ただ針を刺すだけ。

──向こうは雑なんですね。

養老 いや、それを「雑」と言うのは日本人だけですね。それが自然そのものだというのがヨーロッパ人の感覚なんですよ。「人工化する」と言うと変だけど、日本人はとにかくきれいに標本をつくろうとします。

──養老さんもやはり日本的ということですね。

養老 そうなんでしょうね。足が伸びてないやつはやっぱり気に入らない(笑)。足が曲がったままの標本をつくると、なんとなく気分がスッキリしないんですよ。

──標本はいつからつくるようになったのですか。

養老 最初につくったのは小学校4年生のときですね。

──それからずっとですか。

養老 ずっとです。

──もう80年近く、虫を採って標本をつくり続けてきたんですね。これは満足できないという標本もありましたか?

養老 いくらでもあります。

──逆に満足できたというのは? やはり完璧に左右対称で完璧な色艶の標本ですか。

養老 そうですね。別に完璧な左右対称は求めていないけど、写真に撮って、そのまま図鑑にできるというぐらいの標本ですかね。

虫の姿は「なるべくしてなった」結論

──「虫めづる日本の美」展では、平安時代の工芸品や江戸時代の写実的な絵画、現代美術作品など、虫を表した作品が数多く展示されています。日本人はずっと虫の存在を感じ、虫を愛でてきたんですね。

「四季草花草虫図屛風(部分)」江戸後期、細見美術館蔵

 同時に、虫のすごさも思い知りました。例えば、カブトムシが羽を広げて畳むメカニズムを人工的につくってアート化した作品が展示されています(作品名「Ready to Fly」、作者:山中俊治+斉藤一哉+杉原寛+谷道鼓太朗+村松充)。カブトムシには、あんなに複雑で精巧なメカニズムが備わっているのですね。