今回のNikkei Asiaの記事によると、TSMCはアリゾナ工場で、5ナノ・4ナノプロセスの半導体製造技術で生産する計画だった。これは、アップルの「iPhone 14 」「14 Pro」向け半導体に用いている製造技術。だがアリゾナ工場の新計画では、最終的に3ナノ製造技術を用い、ウエハー生産能力を2倍の月4万枚に引き上げるという。

 TSMCは最近、台湾の台南工場で3ナノ半導体の製造を始めた。TSMC創業者の張氏はこれに先立ち、3ナノ製造技術をアリゾナ工場にも導入する考えを示していた。だが米国で半導体を製造するにはコストが少なくとも5割増えることも明らかにしていた。

米国での生産、台湾に比べ5割高

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、コスト上昇の要因は米国の物価高や人員不足などさまざまだ。台湾で数十年にわたって構築してきた製造エコシステムを米国で再現することは容易ではないという。

 台湾工場では、地場のエンジニアや東アジア地域のサプライヤーネットワークを活用してコストを低減できるが、米国では人材を確保するのも難しい。工学部の新卒者を見つけることも困難で、採用に多くの投資が必要となる。 また、米国で採用した技術者は、台湾に派遣し1年~1年半の研修を受けさせるという。クリーンルーム設備や製造装置などは米国で割高だったり、入手困難だったりするため、TSMCはこれらの機器を可能な限り台湾から輸送している。

 これについて、米証券会社ニーダム・アンド・カンパニーのアナリストであるチャールズ・シャイ氏は、「TSMCはアリゾナ州と熊本の新工場とその拡張をより優先すべきだ」と指摘する。

 「TSMCは生産拠点を台湾から分散するよう求められるだろう。顧客は台湾以外での生産体制を構築するよう要求すると思う。TSMCはこれに真剣に取り組む必要がある。コストと効率の観点から理想的でないかもしれないが、地政学的な観点から現状はもっと理想的ではない」とし、生産体制が台湾に集中している現状のリスクを指摘した。