■DX企画・推進人材のための「リスキリング実践講座」(1)はこちら

 筆者は現在、住友生命保険に勤務し、デジタルオフィサーという役職でデジタル戦略の立案、執行を担当している。また、社内外のDX人材育成活動として年間40回以上の講演や研修を実施したり、社外企業数社の顧問としてDXの推進やDX人材育成のサポートをしたりしている。

 この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべき「企画・推進の仕事ができる力」の養成を目的としている。DXでは新しいことを学び、それを生かして仕事を行う必要があり、これまでの知識やスキルでは対応できない場合が多い。このため、「リスキリング」を行う必要があり、この連載ではそれが学べる。

 前回は、リスキリングで新しいことを学ぶときは「考えさせる仕掛け」が必要であることを説明した。今回は、「新しいことを身に付けるためのテンプレート」について説明したい。

「会社視点から抜けられない人」をどうするか

 マインドセット研修は、「ビジネス発想力」の強化を目的としており、これまで説明してきた(1)~(3)のワークショップはビジネス企画アイデアを考える(4)のワークショップの準備として実施している。

 この順番には深い意味がある。これまで時間の関係で(1)~(4)のワークショップの全ては実施せず、(3)だけや(3)→(4)の2つだけを実施したことがあったが、明らかに受講者の理解度は低かった。何回か試してみたが、やはり(1)~(4)の順番でやっていくことで受講者の理解が深くなることが確信できたので、今はこの順番で行っている(ただし、簡易版はある)。

 その理由は、筆者の分析では(1)でビジネス用語についてスマホで調べることに慣れ、(2)でビジネスモデル事例をスマホで調べることに慣れるからだと思っている。もう一つ、(1)と(2)のワークショップで「自分で考えたことを恥ずかしがらず口に出すことに慣れる」からという点も理由になっていると思う。(1)の最初の頃は遠慮がちだった受講者たちが、(2)が終わる頃には元気に自分の考えを発表できるようになるからで、このマインドチェンジも「学びの仕掛け」の一つである。

 では、ワークショップ4の話に移ろう。

 このワークショップを始めた頃、大きな課題が発生した。それは受講者の考える新しいビジネスの商品やサービスのアイデアに「消費者として買いたい、体験してみたいと思うものがほとんどない」ということだった。これは「ビジネス発想力研修」としては致命的である。

 筆者は、なぜ魅力的な商品やサービスが出てこないのかを考えてみた。そして、それは受講者が「自分の会社」や「自分の部門」「自分の会社の属する業界」の常識や利益を第一に考えていたことが原因ではないかと思った。つまり、今ある会社本位の商品やサービス、収益、販売チャネル、マーケティング方法を単に怖々と小さく見直しただけのものになっていたのだ。これが魅力的であるはずがない。

 現在において、ビジネスを成功させる商品やサービスは、消費者・顧客志向であることが必要である。それは消費者・顧客がネットで情報を入手できるようになり、ネットで好きなものを買えるようになったからだ。このため、商品やサービスは、事業者側でなく、消費者や顧客が喜ぶもの、ペイン(苦痛)を解消するものでなければならない。

 だが、長年、会社や団体の立場で考えてきた受講者たちは、この考え方が身に付いていない。これまでの常識にとらわれ、離れられないのである。これは研修設計の大きな問題だった。

 では、これをどうしたのか。消費者や顧客の立場で考えられないのなら、考えられるような仕掛けを作ればよい。プロセスをひな形にしてテンプレートにしてしまえ。筆者はそう思った。