●湖池屋の強さの理由に迫るシリーズ第1回はこちら

 湖池屋の連載も後半に入り、そろそろ終盤へと向かうことになる。今回(5回目)も前回、前々回に続き、話のネタは「カラムーチョ」になるが、この回で「カラムーチョ」については締めくくりたいと思っている。

 早速だが、ここで前回のおさらいをしておこう。視察に訪れた米国で、湖池屋の商品開発チーム(以下、開発チーム)は、当時流行っていたメキシコ料理(テクス・メクス料理)に出会う。それをきっかけに同社は「辛いポテトチップス」の開発をスタートさせる。しかし、商品開発が進む中、辛味の強弱、辛さと旨みのバランスなど、味づくりは難航する。その傍ら、社内では「辛いポテトチップス」に反発する声が上がる。

 それでも怯むことなく、湖池屋は商品開発を推し進める。そして、これまでの慣習や常識から外れた「辛いポテトチップス」を成功へと導くため、面白いという視点をコンセプトに加え、「カラムーチョ」という商品名を誕生させる。大まかだが、このような流れで前回は「カラムーチョ」が完成する直前までを紹介した。

型破りだけど、目指したのは面白い

 さて、「カラムーチョ」という商品名が決まり、湖池屋の開発チームは大量の唐辛子やスパイスにまみれながらも、もっと辛く、そして、辛いがおいしいを目指し、味づくりに没頭する日々を重ねる。さらに、商品の形状もフラットタイプよりも表面積が大きく、咀嚼する回数が増えるスティックタイプを採用するなど、より辛いがおいしいを体感できるように工夫していく。 

 こうして「カラムーチョ」は完成の時へと大きく近付く。ここまで来ると、残すはパッケージデザイン(以下、デザイン)と価格といったところだが、デザイン、価格も商品の行く末を決める上で重要なファクターになる。

 これは言わずもがなだが、商品のパッケージというものは買い物の場で、商品と生活者を直接的かつ最終的につなぐ接点になる。それだけに、デザインは商品の特徴やセールスポイント、つくり手の思いやこだわりを伝える上で、とても重要な役割を担っている。もちろん、「カラムーチョ」にとっても、それは同様なのだが、今までにない辛いポテトチップスという十字架を背負った「カラムーチョ」にとって、デザインは通常よりも何倍もの重圧がかけられていた。

 そうした点を踏まえると、「カラムーチョ」のパッケージデザインは、さぞかしシンプル、洗練といった言葉が当てはまり、格好いいものを想像する人が多いと思う。しかし、発売当時の「カラムーチョ」のパッケージを見ると、そのデザインはシンプル、洗練といったものではなく、正直なところ、その真逆とも言えるものが採用されているのだ。

1984年9月に誕生した「カラムーチョ」。発売当初は写真左の「スティックカラムーチョ」のみだったが、コンビニで火が付き、爆発的な売れ行きを見せる中、1986年にはフラットタイプの「カラムーチョチップス(写真右)」が発売されることになる

 「カラムーチョ」のパッケージ(表面)には、南米のラフなイラストを中心に、マンガのように描かれたサボテンやマラカス、唐辛子などが配され、しかも、その周辺には手書きのような文字でメッセージらしきものが書かれている。その文句を読んでみると、『こんなに辛くてインカ帝国』、『サンバのリズムで辛さ3倍?つまんで すすんで カラムーチョ!』、『アミーゴのくちびる熱し、キッスオブファイア、激しく燃えてカラムーチョ』など、まるでオヤジギャグのようなコメントが所狭しと並んでいる。

 当時、湖池屋にとって「カラムーチョ」は、ある意味、社運をかけた商品だったはずだ。それなのに、「カラムーチョ」のデザインは、先に記したように、これまでのセオリーや常識を大きく逸脱していた。

 しかし、「カラムーチョ」の場合、洗練さはもちろん、これまでのセオリーや常識といったものとは無縁のデザインでなければならなかったのかもしれない。そもそも、「カラムーチョ」は「辛いポテトチップス」という時点で慣習や常識から外れていたのだから。

 そう考えると、デザインもこれまでの常識を超える必要があり、商品全体で慣習、常識の枠を振り切ることが必然的に求められていたのだろう。そして、型破りな表現ができたからこそ、「カラムーチョ」は爆発的なヒット商品になったのだと、私は思っている。