デジタル化に伴い企業の入れ替わりが激しい昨今では、1つの事業を展開しているだけでは市場で生き残ることは難しい。古くから幅広い事業に取り組んできた住友商事は、時代の変化に合わせて事業ポートフォリオを組み換えることで、現在も高い収益性を維持している。住友商事副社長/CDOの南部智一氏に、柔軟に事業を転換しながら成長を続けてきた同社の取り組みと、現在注力しているDX戦略の詳細を伺った。

※本コンテンツは、2022年6月27日に開催されたJBpress/JDIR主催「第13回 DXフォーラム~デジタルテクノロジーの活用による企業変革の実現~」の特別講演4「住友商事が挑むコーポレートトランスフォーメーション~デジタルソリューション総合商社の実現へ~」の内容を採録したものです。

縦割り組織の問題を解消すべく中計「SHIFT 2023」を策定

 住友商事は、「金属」「輸送機・建設機械」「インフラ」「メディア・デジタル」「生活・不動産」「資源・化学品」「エネルギー・イノベーション・イニシアチブ」という7つの産業製品セグメントを展開している。

 これほど手広く事業展開している同社だが、DXによる変化の前に浮き彫りになった課題がある。それは、事業部門が縦割り組織になっており、資源も人材も固定化されているがために、知見を他部門へ横展開できないことだ。これによって、産業領域を超えたビジネスを総合的につくり上げるのが難しくなっていたという。また、収益ポートフォリオが特定の分野のみに依存するようになり、長期的かつ広い視野で収益を高めていくという発想も生まれにくいという悩みもあった。

 こうした課題を解決するために2021年に策定したのが、新中期経営計画「SHIFT 2023」だ。同社代表取締役副社長執行役員CDOの南部智一氏は、それまでの経緯と現在の状況を次のように話す。

「住友商事グループでは2020年に、資源を中心に大幅減損を行いましたが、2022年3月期には4637億円の黒字となっています。しかし、黒字化している上位事業会社は毎年共通しており、結果的に同じ事業ばかりを続けていることが課題になっていました。そこで、長年にわたり価値を高めてきた事業を特定し、投資すべき分野を明確にしました。事業の選別や資産の入れ替えを行い、新たな収益の獲得を目指したのです」

「SHIFT 2023」では、事業ポートフォリオのシフトが重要命題となっている。そのためまずは、それぞれの事業を「注力事業や成長事業」「長期的視野で育てていく事業」「成長性に課題がある事業」の3つに分類。市場の魅力度が高く、強みを十分に発揮できる事業分野にシフトして収益性を高め、下方耐性を強化することを目指した。

「考え方の基本にあるのはサステナビリティ、すなわち永続性のある事業を優先し、それをDXで実現していくことです。住友商事グループの合計800社以上の事業会社をSBU(戦略事業単位)に分類し、『バリュー実現』『シーディング』『バリューアップ』『注力事業』という4象限に分けてプロット。その上でアクションを規定し、生み出したキャッシュをどこに投下するかを検討していきます」と南部氏は説明する。

 選別する事業はそれぞれWACC(加重平均資本コスト)を算定し、それを超える産業領域でのROIC(投下資本利益率)をつくっていく。そこでEVA(経済的付加価値)を高められる事業であれば、上の象限に昇格させるといった運用だ。

 また、企業が進むべき方向性も改めて議論した。次世代成長戦略テーマとして「次世代エネルギー」「社会インフラ」「リテイル・コンシューマー」「ヘルスケア」「農業」の5つを掲げ、それら全てにDXを絡めて全社で中長期的に強化・育成していこうとしている。

 さらに、人材戦略も見直し、新たな人事制度の構築も始めた。「Job型制度の導入」では、年次制度は撤廃し、専門性・スキルを重視した最適配置を行うことで、若手からシニアまで全世代の活性化による組織パフォーマンスの最大化を目指す。