「小売の黙示録」という言葉が使われ始めたのは2017年。これは米国小売業界で大量の店舗閉鎖が続いていることを示した言葉だ。
昨年末にテレビメディアCNBCが報道した調査会社コアサイトリサーチのデータでは、小売店舗の年間新規開店数と閉店数は2017年に逆転し、開店数が約5000店なのに対して閉店は約8000店。その後、毎年開店数は下がる一方で2019年の閉店数9832に対して開店数は4689。2020年も閉店数は9000店弱で、昨年末にようやく閉店数5079に対して開店数5083とほぼ同レベルに戻っている。
今年については現時点で新規開店は4432店と昨年同期と同水準だが、閉店数は1954店で昨年同期の約2100店より減少している。
アマゾン効果やオーバーストア、コロナ禍による店舗削減モードがようやく一巡したということだろう。既に消費者はコロナで行くのを避けてきた店舗に戻っており、国内外の観光も回復し始めている。インフレの影響やEコマースシフトはあるものの、商業不動産も値頃感がある状況が続き、出店加速の環境が整ってきている。
ダラーストア、オフプライスチェーンが100店を超える出店を予定
図表1は年内または数年以内の大手小売企業の出店計画一覧だ(2022年8月15日時点)。
一目瞭然なのは年間100を超える出店はダラーストアやオフプライスチェーンによるもので、現下の物価高を考えれば自明の理だ。自動車部品販売店も強気の出店計画を立てているが、自動車は生活の足、しかも昨今の新車不足を考えれば手持ちのマイカーを大切に修理しながら乗り続ける必要がある。そして自動車パーツはやはり専門家がいる店舗で相談しながら購入したいのだろう。同じ理由がハードウエア店にも当てはまる。
30~40店規模の新規出店では、在宅勤務の影響でビジネスウエアにも取り入れられて始めているアスレジャーファッションやスニーカー等の専門店が多い。
また、オンラインから発生したD2Cブランド(ワービーパーカー、ファブレティクス、ブルックリネン、パラシュート)が店舗出店を成長戦略の柱にしている。オンラインにはないリアルに商品を触り、発見する楽しさを提供するだけでなく、年々上昇しているデジタルマーケティングコストへの対応、そして欧米では個人情報保護法が施行され、個人情報がひも付いていない第三者データの広告効果が下がるため、むしろ観光客も見込めるような好立地に店舗を構え、売り上げとマーケティング効果を得ることを期待している。
出店数は少ないものの、注目したいのがコールズやメーシーズ百貨店のオフモール立地での小型店新規出店だ。ショッピングモールが変容する中、もはやアンカーとしての役割は終わり、商品数を絞って専門店的な戦略で顧客ニーズをより深く開拓していく構えだ。メーシーズはこれ以外に、既存店の中にアウトレットストア「バックステージ」をインストアとしてオープンさせており、既に300拠点以上に及ぶ。実質的には百貨店面積は縮小して他業態で埋めるという作戦だ。両百貨店は「小売の黙示録」時代に不採算店舗の撤退、売場面積の縮小を行ってきたが、今後はオフモール立地に新規小型店として生き残ろうとする戦略がみえる。