経験者が語るスタートアップからIPOへの道

 本イベントでは、福岡発のスタートアップが集うピッチセッションや、大学発スタートアップの代表が語り合うトークセッション、ベンチャーキャピタル(VC)によるスタートアップ投資の現状を語るセッションなど、スタートアップに関する多面的なテーマで講演が行われた。今回はその中から、IPOを遂げた2社のスタートアップが、起業から上場までの経緯を語ったセッションの内容を紹介する。

 本セッションは、ココペリ代表取締役CEOの近藤繁氏、アスタリスク代表取締役社長の鈴木規之氏の2名が登壇。モデレーターは、みずほ銀行執行理事リテール・事業法人部門副部門長の大櫃直人氏が務めた。※2022年3月時点の役職

 近藤氏は、新卒で銀行に入社、IT企業を経て2007年に28歳でココペリを設立した。現在の主力サービスは、地域の金融機関とパートナーシップを締結し、中小企業向けに提供する経営支援サービス「Big Advance(ビッグアドバンス)」で、2020年12月に東証マザーズに上場した。

ココペリ代表取締役CEO 近藤繁氏

 アスタリスクは、バーコードや画像、RFIDなどを認識する技術を武器に、物流や製造業、医療などのDXを支援する。創業は2006年、東証マザーズ上場は2021年9月だ。本社は大阪で、東京と名古屋に国内拠点、海外では米国、オランダ、中国に事業所を構える。

 創業後、順調に業績を伸ばす企業であれば、5、6年で上場する場合が多いが、この両社は、ともに上場を果たすまで15年ほどの時間を要している。大櫃氏は最初に、創業時からの苦労について2人に質問を投げ掛けた。

 鈴木氏は「創業当初はソフトウエアの受託から始めたので、自社商品というものがなかった。ニーズを聞きながら、自社商品を作り出していった。今思えば、かなり無謀だったかもしれない。また、私は数学専攻の理系の出身で、お金のことには疎くて、正直言うと、VCの存在すら知らなかった。だが、無謀だったからこそ、自分で経験しながら学んでいけた」と話す。

アスタリスク代表取締役社長 鈴木規之氏

 近藤氏は、「前の会社が倒産したことが直接のきっかけだったため、創業に向けてしっかりと準備をせずに起業したのが本当のところ。中小企業を支援したいというビジョンはあったが、それをどうやって実現するかについては、起業してから詰めていったところもあり、苦労した。一方で、資金面では金融機関にいた経験を生かし、創業時に可能な分の融資をフルに受けることにした。一度でも決算をしてしまうと、銀行はそれを見て判断するが、まだ決算していない創業の年は、“夢と希望”でお金が借りられるからだ」

 大櫃氏が「中小企業向けビジネスでマネタイズするのはすごく難しいこと。それを知っていながら始めたのには理由があったのか」と近藤氏に質問すると、近藤氏は次のように答えた。

みずほ銀行執行理事 リテール・事業法人部門副部門長 大櫃直人氏

「確固たる勝算はなかったが、根拠のない自信だけはあった。しかしながら実際に起業してみて、お客さまから1円でもお金をいただくのはこんなに大変なのかと思い知った。当時は若かったこともあり、突っ走ってきた。創業から10年ぐらいは、基本苦労していた。創業して10年ぐらいたって、VCから投資を受ける機会もあった」

 その間、何度か大きなピンチにも見舞われた。「一番資金繰りが苦しいときは、来月の給料が払えないかも、というところまでいった。つらいときに、経営者が自分のことだけ考えていると、諦めてしまうだろう。やはり、お客さまや、一緒に働いてくれている社員のことを考えると、諦めずにこらえることができると思う」と近藤氏は振り返る。

 鈴木氏も、「全く同感。私利私欲がベースだと、苦しいときに続かない。だが、家族や社員、その社員の家族の人生を支えていると考えると、やめることはできない。それと、自分の信念が今までぶれなかったことが重要だった」と語る。