DX推進を効果のあるものとするためには、戦略を掲げるだけでなく、人や組織についても併せて考えていく必要がある。クレディセゾンでは、スタートアップの「スピード感および技術力を重視するカルチャー」と、日本の歴史ある企業の「安定性を重視するカルチャー」の双方の良さを融合させる「バイモーダル戦略」が着実に進んでいる。指揮を執る同社取締役 兼 専務執行役員CTO 兼 CIOの小野和俊氏に、その戦略の実行方法について聞いた。

※本コンテンツは、2022年1月26日に開催されたJBpress主催「第2回 金融DXフォーラム」Day1の特別講演Ⅰ「金融機関のDX推進実現のための組織戦略と人材戦略」の内容を採録したものです。

安定性重視の大企業にスタートアップのアジャイルな文化を融合

 現在、クレディセゾンでCTOとCIOを兼務している小野氏は、以前、ソフトウエア開発ベンチャーであるアプレッソを起業し、「DataSpider」というデータ連携ツールを開発していた。同社は、2013年に同じくデータ連携ツール「HULFT」を開発するセゾン情報システムズと資本業務提携を行ったが、それがきっかけで小野氏はセゾン情報システムズに入社している。

「アプレッソでは自由度や柔軟性、スピードを重視するスタートアップ的な動き方をしていました。一方、HULFTは安定性が特長で、ウォーターフォール型の開発手法にある合理性などの強みを経験しました。双方を経験したことで、スタートアップ的にアジャイル型で開発していくべき領域と、日本企業の伝統的なウォーターフォール型で開発していく領域を使い分けていくことこそが望ましいという結論にたどり着きました」

 小野氏のこの気付きからセゾン情報システムズでは、ウォーターフォール型開発とアジャイル型開発とを共存させた「バイモーダル戦略」をとるようになった。そうした中、2019年に同社の関連会社で大株主のクレディセゾンから、バイモーダル戦略を用いた改革を主導してほしいと声が掛かり、グループ内異動の結果、小野氏はクレディセゾンのCTOとして迎えられた。

 クレディセゾンは、クレジットカード事業や住宅ローン事業を中心に展開しており、預金の取り扱いのない「ノンバンク企業」だ。歴史が長く規模も大きいため、デジタル化に際してそう簡単に変えられない部分もある。小野氏はセゾン情報システムズで培ったノウハウを生かし、そこにメスを入れた。

 最初に強化したのが、技術者の採用だ。小野氏は社内の基盤強化のため、システムを内製化できる体制が必要だと考えた。しかし、当時の情報システム部門は予算管理やベンダーコントロール、要件定義といったビジネス部門との会話が中心で、自分たちで手を動かしてコードを書いたり、データ分析やデザインをしたりといったことはほとんど手掛けていなかった。そこで、小野氏は自身のブログに思いをつづり、システムを内製化できる優秀な技術者を募ったのだ。これが成功して期待する人材が集まった。小野氏の指揮のもと、半年後には完全な内製開発で大型プロダクトをリリース。その後もスタートアップのスピード感と機動力を生かしてデジタル推進に注力していった結果、現在に至っている

 日本企業の伝統的な企業体質を持つクレディセゾンは、小野氏が持っていたスピード重視のアジャイルな文化を取り入れることで、新たなDX推進の原動力となるカルチャーの醸成に成功したといえる。