戦略があってこその、現場提案

 上記のクライアントでは「新事業でなくてもいいから、研究開発現場から新商品アイデアを創出し、上市に結び付けたい」ということで、まずは担当者のヒアリングを行った。聞けば、現場からのアイデア提案自体はなされているが、上位層の誰も判断ができずに流されていっているという状況が常態化してしまっているようだった。

 私自身は16年、R&Dの提案力強化に携わっているが、この間、クライアントの状況に違いが生まれているように感じる。かつては「MOT」や「CRM」が普及していたタイミングとあって、論理的に考えられたマーケットコンセプトや技術戦略が曲がりなりにも存在していた。

 しかし、最近はそういった会社全体の戦略がない中で「現場からの提案」を要求するマネジメント層に出会うことが増えた。

 たまたま私の出会いがそうなだけなのかもしれないが、VUCAの時代といわれる中で意味を見いだされなくなってきているのかもと推測される。しかしながら「会社としてどうしたいのか・どうすべきなのか」がないことには、現場提案を判断できるわけがないのである。

 「これは既存戦略に乗っているから○○事業部で判断する」とか「どこの戦略にも当てはまらない斬新なものだけど、まだ具体性に欠けるから、泳がしておこう」といった議論ができない。結果、現場の自分の提案がなぜ判断されないのかが分からない。

 おそらく「自分が決めたら、メンバーはやらされ感になってしまう。メンバーが決めたことをやったほうがいい」という意見の管理職もいるだろう。確かに組織マネジメント上、そういう局面もある。しかし、少なくともメンバーに対して適切な支援ができる自分なりの戦略イメージは持っておいてほしいと思う。

管理職はビジネスリーダーになれ

 管理職になると、実験などの実務をやらなくなるケースが多いが、メンバーの管理に重きを置け、とはいったい誰が言い始めたのだろうか。

 イノベーションや新価値を生み出すときには、仕組みの前によきアイデアやよきビジネスパートナーが必要である。もちろん、担当者レベルでも学会などに出掛けて外部交流することは可能だし、今の実務においては担当者が望ましいこともある。

 しかし、管理職はさらに高い視座でビジネスチャンス創出のための動きをとってほしいと思う。もちろん、イノベーションや新しい価値創出のための仕組みを作っていくのも大事な仕事だが、新規参入してきそうな業界との交流や、市場のシンポジウムなどに自ら出掛けてチャネル構築をつくることも大事な仕事である。

 “イノベーション人材開発“は決して担当者のためにあるものではなく、管理職こそ自らの意識や行動を正してほしいと考える。内向き行動を外向きに、やらせる前に自ら管理職としての責務を果たすということを振り返ってほしい。

コンサルタント 大﨑真奈美(おおさき まなみ)

R&Dコンサルティング事業本部
R&D組織革新・KI推進センター
チーフ・コンサルタント

技術者・研究者の企画力向上や、R&D組織革新の支援に従事している。最近は、技術者・研究者の心に火をともすことをミッションとしており「火おこし」役として日々実践・研究をしている。2児の母。カウンセラー資格を持っている。