リテール業界では今、スマートレジカートによる顧客体験の刷新やロボットによる商品陳列の自動化など、さまざまな実証実験が行われている。EC企業のリアル店舗進出の動きはリアル店舗のDXを活性化させ、その結果、買い物の現場が大きく変化してきている。一般社団法人リテールAI研究会 代表理事の田中雄策氏は、事例を挙げて変化を追いながら、リテール業界の今後について「収益源は金融、システム販売、広告の3つになる」と指摘する。

※本コンテンツは、2021年11月17日に開催されたJBpress主催「第6回 リテールDXフォーラム」の基調講演「DXが進む日本の流通の未来」の内容を採録したものです。

ECがもたらした流通の構造変革

 流通における構造変革は、Amazon(アマゾン)を代表としたECの登場から始まった。デロイト トーマツ グループの「世界の小売業ランキング2021」によると、アマゾンの売上高は小売り大手のWalmart(ウォルマート)に迫る2位につけている。

 リアル店舗を販売チャネルとする企業がECに活路を見いだし、次々と市場に参入する一方で、EC企業がリアル店舗への進出を強化している。リテールAI研究会 代表理事の田中雄策氏は、この変化を象徴する例として、アマゾンとAlibaba.com(アリババ)を挙げて説明する。

「アマゾンは、注目を集めたレジレス店舗『Amazon Go』の展開に加えて、高級スーパーのWhole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)を買収するなど、リアル店舗を急速に増やしています。下図にあるようにさまざまな業態があり、最近は百貨店の計画も出ているようです」

店舗数は講演を収録した2021年10月27日時点
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 中国ではアリババが、同様の動きを強めている。事例の一つが、スーパーマーケットの盒馬鮮生(ファーマーションシェン)だ。

「インターネットで最も売りにくい生鮮や海鮮を、リアル店舗のショーケースにしてあります。顧客は来店して実物を目で確認し、『良いものだ。買いたい』と思ったら、オンラインで注文と支払いを行う仕組みです。店舗から3キロメートル以内なら、30分で配達するというサービスも行っています」

 さらにアリババでは、リアル店舗を宅配のラストワンマイルを担う物流宅配拠点としても活用する。アリババグループのB to CECサイトの天猫(テンマオ)では、アリババの商品を販売できる代わりに店舗が配達業務を担う。また、この店舗がアリババの決済システムを使用することで、顧客データの収集も行えるようになっている。

 なぜ、インターネットの利便性を強みとしたEC企業が、リアル店舗に進出する必要があるのか。田中氏は、リアル店舗だからこそできる膨大な顧客データの収集が狙いだと分析する。

「リアル店舗では、家族で買い物に来ているのか、それともカップルなのか。顔が見えることに加え、どのような買い方をしているのか、どういう順番で買っているのかなど、多くのことが分かります。そうした顧客データが、リアル店舗の方が圧倒的に多い。そのデータがこれからの財産になると考えているのです」