ここ数年、栽培や醸造といった分野でも、女性が責任ある立場で活躍しているワイン業界。今回は、シャトー・メルシャン勝沼ワイナリーの仕込み統括の丹澤史子さんに、仕事内容やブルゴーニュでの経験、今後に活かせることなど、興味深いお話を伺った。

取材・文=鈴木文彦 写真提供=メルシャン

シャトー・メルシャン勝沼ワイナリーの仕込み統括の丹澤史子さん

女性リーダーによって変わること

 経営やマーケティング、ジャーナリズムといった分野では以前から女性が活躍しているワイン業界だけれど、ここ数年、栽培や醸造といった分野でも、女性が責任ある立場で活躍している印象がある。

 ワインに華やかなイメージをもっているかただと、男女の差をとやかく言うことに違和感を抱くかもしれない。けれど、ワイン造りはけっこう、肉体労働だ。ブドウ畑というのは、広大な平野にあったり、急斜面にあったりと、人間にとって過ごしやすい場所に必ずしもあるわけではないし、ブドウ樹は極寒でも酷暑でも手入れを要する。ブドウもその果汁も、液体で重たいにもかかわらず、栽培から醸造の各工程において、移動を要する。その上、無数のワインをテイスティングすることもあるけれど、それはアルコールを含んでいるから、耐性があるに越したことはない。

 と、これだけとってみても、筋力が強かったり、体調が常時安定していたり、体が大きいほうが有利な場合が少なくないのだ。それで、栽培や醸造は男の仕事、になりがちだ。

「私の先輩にあたる男性は、大体の作業を自分一人でもできてしまっていたんです。私はそもそも、誰かに頼まないとどうにもならないことがいっぱいありました」

 シャトー・メルシャンにとって初の女性「仕込み統括」として、勝沼ワイナリーで活躍する丹澤史子さんのその発言の裏には、そんな前提もあるのだとおもう。

 ところで、仕込み統括、というのはワイン業界においても耳馴染みのある役柄ではない。それは、一般的に言う醸造責任者、といった役割なのですか? とたずねてみると。

「そうとも言えるところはありますが、勝沼ワイナリーのワイナリー長は田村(田村隆幸さん)であって、私は係長でもなんでもないんですよ」

 と笑う。普通、ワインの会社で醸造責任者ともなれば、会社の命運を左右する重役だ。なにせ、ワインの会社でワインの質・量がグラついていたら、経営もなにもないのだから。ところが

「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリーでは、メンバーのなかから、今年の仕込み時期の収穫と醸造に関して全体のリーダーをやってもらおう、という人を、仕込み統括という役割で、毎年春に選ぶんです。それで今回は私が任命されました。私の基本的な所属は、品質管理課と技術課です。技術課、というのは技術課題を解決する部署なのですが、なんでも屋さん的なところがあって、栽培や醸造の担当とともに、ワイナリー内だけでなく、畑を見たり、農家さんに会ったり……それが通常の仕事で、その上で、統括もやる、という感じですかね」

 というと、結構、チームで動いて、仕込み統括、といっても負担は分散されているのかな、とおもった矢先、

「仕込みの時期というのは毎日、決めなくてはいけないことがたくさんあります。ブドウをいつ収穫するか、いつどこに何人の人が必要か、道具は揃っているか?  ブドウがワイナリーに来たら、ブドウをみながら、こういうワインを造ろうと考え、それぞれ、どう仕込んで何番のタンクに入れるか? こういったことを、調整、決定していくのが仕込み統括です」

 これは責任重大だ。