統括する人数は、ワイナリーでおよそ30人。栽培・醸造チームのほか、シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリーでは製品数が多いため、包装チームもいる。仕込みの時期には、その包装チームもブドウの受け入れ、受け入れたブドウを圧搾機に入れ、果汁をタンクに入れ、といったことを請け負い、本当に忙しいときは、総務や事務のスタッフに選果台での手伝いをお願いすることもあるという。

山梨市上野園での甲州の収穫

 これだけでも結構な大所帯。そして、もちろん、農家、物流を担う人々といった、社外の人ともコミュニケーションをとらなくてはならない。なかなかの激務とリーダーシップの必要性が想像できる。そしてもちろん、人によって、年によって状況がことなるワイン造りの現場では、誰かが、すぐに決めないと動かないことがたくさんある。

「例えば、ブドウが、甲州だったとして、白ワインにするかもしれないし、『グリ・ド・グリ』にするかもしれない。これは『きいろ香』になるので、酸素から守って優しく搾りましょうとか、こういう酵母を使いましょう、このくらいの温度で醸造を管理しましょう、発酵が終わってきたので、フルーティーさを残すために澱がない別のタンクに移しましょうとか、そういうことを決める立場でもあります」

グリ・ド・グリの木桶での醸し中の液循環

「醸造後もワインを見守り、赤ワインだと、熟成期間も長いので、仕込み統括という立場では見守り切れないこともありますが、私も、去年、前任者の高瀬 (高瀬秀樹さん、現在はシャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリーの栽培・醸造責任者)が仕込んだ赤ワインをいまブレンドするにあたって、これとこれを混ぜるつもりだったんですか? という連絡をしてみたり……」

城の平のカベルネ・ソーヴィニヨン醸し発酵後の果皮

 責任重大ですね、と口をはさむと、丹澤さんは頷き、冒頭の言葉のあとに、前任者である高瀬さんと自分のちがいをこんな風に語った。

「一人でも一通りの作業をこなせてしまういままで統括をしてきた男性の先輩の場合、メンバーもその背中を見て学ぶ、みたいなところはあったようにおもいます。でも、私は物理的に無理な作業もあるので、話をすることが多くなります。こうしたい、こういうワインを造りたいから、こういうことをして欲しい、と言葉にする。それで、だからこういうことをしていたんですね、と気づいた若手もいました。そこは、これまでにないスタイルのリーダーだったかなとおもっています」

ブルゴーニュ帰り

 丹澤さんのオリジナリティは女性であること、だけではなく、これまで、ボルドーとの付き合いが濃かったシャトー・メルシャンの醸造家のなかで、ブルゴーニュでワイン造りを学んでいる、というところにもある。

丹澤さんがブルゴーニュに留学中の写真

 たとえば、きいろ香は、小林弘憲氏(シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー長)、グリ・ド・グリは、勝野泰朗氏(シャトー・メルシャン 製造部技術課)が、その誕生に大きく関わった。二人はいずれもボルドー帰りだ。