文・取材=小泉しゃこ 撮影=花井雄也 協力=木村千夏 編集協力=春燈社(小西洋一)

町中華の名店

 当たり前のように町にあって、町の人々に愛され、町の人々の胃袋を中華で満たす。毎日通いたくなる、そんな「町中華」がクローズアップされるずっと前から、赤坂の「町中華」といえば「赤坂眠眠」である。路地裏に建つコンクリートの建物からは、さすが1965年創業というオーラが漂っている。

 取材当日、ランチ営業が終わった店内のカウンターでは、餃子の仕込みが始まっていた。今日もランチは満席続きだったそうだが、休む間もなく餃子作りに取り掛かっている。ふたりのスタッフが並んで、チャッチャッチャッと餃子を包んでいた。

写真は厨房での餃子包み作業。仕込む量が多いので、カウンターでも行われることも

「慣れていらっしゃいますね? お勤めは長いんですか?」
「あっ、そうですね。一応、ここの社長ですから。」
「……」失礼しました!

 スタッフと一緒に、毎日何百個もの餃子を包む社長の名前は清水浩さん。彼は「赤坂眠眠」の二代目である。父であり先代であり創業者の清水秀夫さんは、日本における焼き餃子の元祖ともいわれる渋谷の「珉珉羊肉館」(現在は閉店)で働いていた。独立する際、自宅を改装してこの店をスタートさせた。餃子のレシピは、創業当時から基本的にほとんど変わっていない。

 改めて餃子包みの作業を見てみる。餃子の皮は信頼できる工場に特注したもので、驚くほどよく伸びる。皮の隅々にまで薄く広げたたっぷりの餡を包み込めるのは、この皮のおかげだ。1個あたり10秒もかからず、次々と餡を包んでいく。この餡は、豚肉をベースに粗めに刻んだ白菜、ねぎ、ニラを手でこね、ニンニクとショウガ、醤油で味をととのえている。「赤坂眠眠」に揃うのは「焼き餃子」「水餃子」「揚げ餃子」「みそ餃子」の4種類だが、基本的にはすべて同じ餡を使用している。

珉珉の餃子といえば酢コショウ

 一番人気は「焼き餃子」で、これを酢コショウで食べるのが「赤坂眠眠」流だ。カウンターにもテーブルにも醤油は置いていない。醤油をつけると味が濃すぎてしまい、せっかくの餡と生地のうま味が消えてしまう。何より「たくさん食べてもらうには、あっさりとした酢コショウがいい」という初代の考えからだそうだ。

 小皿に酢を入れ、GABANのコショウをたっぷりとふり入れる。これで準備は万全だが、まず1個目は何もつけずに食べたい。大ぶりの焼き餃子のカリッと焼けた厚みのある皮から、たっぷりの餡と肉汁が弾け出し、肉感のある噛み応えが心地よい。そして2個目からは酢コショウで。さっぱりとした後味となり、確かにどんどん食べられる。
 
 「赤坂眠眠」には大人数で訪れて全種類の餃子を制覇したいところだが、老舗感のオーラと常連たちの食欲パワーにひるまずにひとりで行っても楽しい。個人的には焼き餃子にビールを添え、締めにもうひとつの名物、ニンニクたっぷりの「ドラゴンチャーハン」を食べたい。そうそう、この満腹感。町中華はこうじゃなくっちゃ。

こちらも名物にんにくたっぷりの「ドラゴンチャーハン」