今回、山梨ヌーヴォーとよばれる新酒であり、11月にリリースされた丹澤さんの作品『日本の新酒』シリーズでは、ボジョレーで知られる手法、マセラシオン・カルボニック(タンク内でブドウが自重で潰れることを利用した赤ワインの搾汁・醸造方法)やブルゴーニュでは比較的一般的な印象がある全房プレス(ブドウの粒を梗から取らずに搾汁する方法)を一部導入した、という丹澤さん。

マセラシオン・カルボニック中のタンク内

 それはブルゴーニュで学んだテクニックですか? とたずねてみると

「マセラシオン・カルボニックは、シャトー・メルシャンでもこれまで何度かやっているんです。ただ、そんなにそれによる特徴がワインに出るような結果には至っていなかった。ブルゴーニュでは、ボジョレーのテクニックも習いますから、今回はちゃんと私が習ったことをやってみたんです。結果的にうまくいったのは、今年のマスカット・ベーリーAの出来がとてもよかったおかげもありますね」

 そして丹澤さんが、ブルゴーニュでの経験で何より、衝撃的だったのは、シャルドネの扱い方だったという。

「私達は『きいろ香』を開発したときに、富永先生に酸化に気をつけた仕込みを教わって、それを甲州だけでなく、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランと、白ワイン全般に取り入れています。もちろん除梗しますし、果汁が酸素に触れない特殊な圧搾機なども導入しているんです。ところがシャルドネの国、ブルゴーニュに行ったら、除梗している人なんておらず、圧搾は全房があたりまえ。ブドウ搾るときに、酸化にビクビクしているような人にも一人も出会いませんでした。シャルドネは、熟成して酸素と馴染んでから魅力が出るんだよ、という人もいましたから」

 実は、全房による搾汁は、去年、一昨年もやってみているという。ただ、まだ、シャトー・メルシャンのレギュラー商品として、それをどう落とし込むかの出口は見えていないそうだ。

「やはり日本とブルゴーニュとでは、同じシャルドネといえどもブドウの時点で味わいに違いがありますし、彼らのやり方が単純に作業としてマネできるとしても、私たちが扱うどのシャルドネに適した製法なのか、ワインとなってからの育成や熟成の過程でどのように変化していくのか、試行錯誤して結果を注視する必要があります。その上で、意味があるとおもえば導入する。ただ、シャルドネにとって酸化が敵だ、とまではおもわなくていいとは感じていますし、手応えを感じているところもあるんです」

 丹澤さんが学んだ現場は、ブルゴーニュの「アルベール・ビショー」社。歴史ある名門であると同時に、大手でもあり、ブルゴーニュならではの職人的世界観と、大手ならではの先端的な設備、技術が融合している。シャトー・メルシャンも、最近、勝沼はもちろん、桔梗ヶ原、椀子ワイナリーと、ワイナリーへのモダンな投資がなされ、畑の個性、造り手の個性をより引き出したワイン造りに力が入っている印象がある。丹澤印の新スタイル、登場なるか?

「これがブルゴーニュの成果、といえるワインができるように、頑張っていきます!」

 

醤油の香りにマスカット・ベーリーAは合う

 最後に、丹澤さんが教えてくれたレシピで、なるほど、とおもったものがあるので紹介したい。それは、「鳥もつ」だ。甲府の家庭料理、といった料理で、キンカンや砂肝、レバーなどの鶏のモツを、醤油、味醂、酒、砂糖からなる甘辛なタレで煮込んで、香味野菜で整えるのが一般的なスタイルだろうか?

 ところが丹澤家では

「母は、マスカット・ベーリーAのワインで煮込むんです。みじん切りにした玉ねぎも使うので、砂糖などで甘みを足す必要はほとんどなくて、醤油で味を整えます。ソースのように煮汁も馴染みますし、これにマスカット・ベーリーAのワインがすごく合います。醤油の香りに、マスカット・ベーリーAは合うんですよ」

 ブルゴーニュでも、地元の赤ワインで牛や鶏を煮込むのは伝統的家庭料理。ちょっとそんな雰囲気を感じないだろうか? また、日本の料理の要である醤油は、やはり、米から造る日本酒のほうが合いやすく、ワイン好きはちょっと悔しいおもいをするところだとおもうけれど、これであればワイン、しかもマスカット・ベーリーAが合う。色々と鳥もつ以外でも応用できそうな発想ではないだろうか。教えてくれた丹澤さんとそのお母様に感謝。