写真左:TerraCycle Japan合同会社 ディレクター 冨田 大介氏、写真右:日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 山之口 裕一氏

 環境問題が深刻さを増す中、エシカルアクション(倫理的な行動)が重要になっている。とはいえ、エシカルアクションは企業の利益になりにくく、コストがかさむという見方もある。その中で、多くの企業が参加するためには何が必要なのだろうか。

 このテーマをもとに対談したのが、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)の執行役員・山之口裕一氏と、TerraCycle Japan合同会社(以下、テラサイクル)のディレクター・冨田大介氏。両社は環境課題の解決に向けた事業を行っており、プラットフォームやテクノロジーを通じて、多くの企業を巻き込む事業モデルを展開している。その立場から見て、2人は「企業をエシカルアクションに巻き込むポイント」をどう考えているのか。

 今回の対談は、7月28日に行われたHEART CATCH主催、IBM Future Design Lab共催のイベント「人・企業・地球をつなげるエシカルアクション〜西村真里子のオニワラ!『鬼と笑おう』〜未来をつくる座談会#6 powered by IBM Future Design Lab」の“延長戦”として実施。イベントでの話題も振り返りながら、2人が意見を交わしていく。

「私たちは売上至上主義で生まれた企業ではない」

――今日は両社の事業を通じて、エシカルアクションに企業を巻き込むポイントを伺っていければと思います。まずはテラサイクルについて、どんな事業をしているのか教えてください。

冨田大介氏(以下、敬称略):テラサイクルは、リサイクルとリユースのビジネスを展開しています。2001年にアメリカで立ち上がり、まずリサイクルプログラムを実施。歯ブラシやプラスチック・バッグ、タバコの吸い殻からチューインガムまで、さまざまなものをリサイクルしてきました。その後、本当にゴミを減らすためにどうすべきか突き詰める中で、ゴミを出さないリユースの仕組みを考えたのです。それが「Loop」というシステムで、市販される日用品の容器を“再利用”前提で開発し、消費者が使い終わった空容器を回収。洗浄した後、もう一度商品を詰めて販売する循環型システムを作りました。詳しくは、この前のオニワラでもご説明した通りです。

 リサイクルもリユースも、企業とパートナーシップを組んで一緒に事業を行うものですので、賛同企業の巻き込み方やつなぎ方はとても重要なポイントです。

――その点ではどんなことに意識していますか。

冨田:私たちのビジョンやミッションを深く理解していただくことです。私たちは、売上至上主義で生まれた企業ではなく、ソーシャルエンタープライズ(社会的企業)として誕生しています。その点に共感していただくことが重要です。

 というのも、企業の環境活動は一時の打ち上げ花火で終わることも少なくありません。短期的なイメージ戦略として行うと、本当の意味でこの活動に巻き込んだことにはならない。環境活動は長期的に取り組むものであり、細くても良いので長く続けることが大事。そのために、私たちの目的や存在意義を正しく理解したパートナーを増やすことを大切にしています。

山之口裕一氏(以下、敬称略):リサイクルやリユースはコストがかかる中で、「なぜコストをかけてもやるべきか」を明確にすることが求められると思います。まさにその部分につながるお話ではないでしょうか。われわれもパートナーと環境事業を行う際、企業が取り組む理由のすり合わせは大切にしている点で、まさに今日の対談でお話ししたいテーマです。

――では、IBMが提供する環境関連のサービスについて教えてください。

山之口:IBM自身、50年以上、環境配慮の取り組みを行ってきました。また、数多くのお客様を支援してきた経験をもとに、サステナビリティーへの各企業の取り組みのベンチマーク(Sustainability Maturity Assessment)やサーキュラエコノミーのビジネスモデル構築(IBM Sustainability Garage)の支援、CO2排出量の可視化プラットフォーム(Net Zero Platform)を整備しています。また、AIやブロックチェーンを活用し、お客様企業のプラスチックリサイクルや、CO2流通の可視化などに取り組んでいます。

――IBMとしては、多くの企業と共に進めていくためにどんなことを意識していますか。

山之口:社会的価値と経済的価値を両立させることです。サステナブルな未来を実現するという社会的価値だけでなく、企業が「なぜ取り組むべきなのか」という具体的なベネフィットや経済的価値を生むことがとても大切です。

冨田:日本はCSRの一環で環境活動を行う企業が多い傾向にありますが、CSRはコロナ禍のような有事の際に予算を削られてしまう可能性が高く、続かないリスクがあります。だからこそ、おっしゃる通り経済的価値を示すのは重要ではないでしょうか。

人々の意識が変われば、環境活動は「コストから投資になる」

山之口:テラサイクルの事業を見て感じていたのは、リサイクルやリユースが消費者に根付けば、それが商品選択の動機になり得るということです。使い捨てしかできない商品ではなく、環境に優しい商品を買おうと考える人が増えるかもしれません。すると、企業にとってコストではなく投資になります。その意味で、消費者にリサイクル・リユースの価値観を浸透させることは、企業のベネフィットを考える面で大切なチャレンジになるでしょう。

冨田:まさに同じ考えです。私たちのビジネスにおいて、リサイクルやリユースをどう浸透させるかは最もと重要であり、難しい点でもあります(笑)。仮に、消費者にインセンティブを用意すれば、リサイクル・リユースは一時的に進むかもしれませんが、インセンティブが無くなった途端にやめてしまうかもしれない。一方、インセンティブ無しに始めた人は、価値観に共鳴して行うので長く続けていただける可能性が高い。そういう人を少しずつでも増やしていく方が、永続的になるでしょう。

 その結果、山之口さんがおっしゃったように、環境に優しいことが商品価値になれば、企業も投資として、マーケティングの中にリサイクル・リユースを組み込む形も出てくると思います。

山之口:例えば、プラスチックリサイクルの可視化では、企業や消費者がリサイクルに出したプラスチックが、その後どこに行き、何に使われたかを把握できることが重要です。今まで不透明だった“リサイクルの先”が見える、つまりトランスペアレンシー(透明性)を高くすると、企業も消費者も「なぜ取り組むべきなのか」というベネフィットを実感できるかもしれません。

冨田:私もトランスペアレンシーは大切だと思っています。企業や消費者がそこにベネフィットを実感すれば、行動変容するカギになるかもしれません。これはセールスインセンティブに基づかない意識の変化なので、永続的に続きやすいと思います。

 一方で、経済的価値に比重が行き過ぎると「利益のためにリサイクルをするのか」という疑問も湧いてきます。それは私たちが本来目指していたものなのかな、と。何より、利益が出なくなったからといって、環境活動をやめて良いわけではありません。

 環境活動は、チャリティでもなければ、利益100%の活動でもない。良いバランスが必要です。その良いバランスを表す言葉を探していくと、「ブランディング」という抽象的な概念に行き着いてしまうのですが、ブランディングは効果を数値化するのが難しく、企業への説得力が弱い気もしています。今はSDGsやESG投資によって企業が参加しやすい時流ですが、この辺りを整理しないと、本当の意味で長く続く企業のエシカルアクションが広がっていかないとも思っています。

ゴミに国境はない。国や地域ごとの法規制はリスクあり

山之口:企業が「なぜ取り組むべきなのか」という動機については、欧州の法規制もポイントになっています。欧州は環境ルールが厳しく、他地域の企業はその基準を満たさないと欧州から締め出されるリスクもある。ある意味、欧州の「自エリア優先主義」ともいえるでしょう。日本企業も危機感を持って取り組んでおり、環境活動を行う動機になっています。

 ただし、こういった自エリア優先主義のルール作りが各地で強まると、グローバルのサステナブルにおいては阻害要因にもなりかねません。世界各国の連携が必要だからです。

冨田:私たちもこの事業をしていると「ゴミに国境はない」ことを痛感します。例えば、日本の海岸に打ち上げられたゴミは、ほとんどが海外から流れ着いたもの。そのゴミに対して日本側がお金を出して回収する現実があります。他方で、バーゼル条約のように、有害廃棄物の輸出入や越境移動を規制する法律もある。ゴミに関しては、ボーダーレスの実態とボーダーを強めようとする動きが両方発生しています。

山之口:海洋プラスチックゴミの7割は、インフラが整備されていない東南アジアの後進国から発生しているといわれています。だとすると、地球のサステナブルを実現するためには、先進国が他地域の問題に関わらないといけない。だからこそボーダーレスの取り組みが重要ですし、広く企業を巻き込む必要があると思います。

冨田:本当にその通りですね。テラサイクルでもグローバルファンドを作り、後進国の河川でゴミをキャッチする装置などを導入しています。このプロジェクトに関わる人員を現地で雇用するなど、自国だけで循環できる仕組みを構築しているのが特徴です。ファンドにはグローバル企業が多数出資していますが、そのような活動を今後増やしていく必要もあるでしょう。

山之口:そうですね。今日お話をしていると、IBMとテラサイクルはアプローチこそ違いますが、取り組みの根幹にあるものは同じだと感じました。環境という大きなテーマと向き合って、これからもお互い歩みを進めていければ良いと思います。