コスト削減分でEXの向上、快適環境が実現できる
では、実際に「社員1人当たり年間10万円」というIT部門へ追加された予算により、会社はどのくらいのDXを推進することができるでしょう。
社員のために総務が推進できる自らの業務を楽にするデジタイゼーション(電子化)やデジタライゼーション(電子化したものの他への活用、プロセス改善など)など、その関連のサービスやツールの活用幅も出てきます。ペーパレースや業務プロセスのデジタル化は以前からの既定路線でもあり、これを機に一気に推進されることは容易に予測できますが、それに限りません。
やはり、ワクチン接種が進んだとしても人々のウイルス感染症への抵抗心理は簡単には回復しないことも予測され、その意味では当面は非接触型サービスや、居場所検知ツール、混雑状況モニタリング、リモート業務サポート系のデジタライゼーションへのユーザーニーズが大きくなるのが予測されます。
これらのテクノロジーに関するコストはSaaSなど「サブスクコスト」へ転換でき、それは社員1人に換算すると「1サービス=1000円/月前後」で推進できるものが大半です。先ほどの1人=10万円/年間=約8000円/月の追加予算感からしたら8サービス以上は投入できることになり、デジタイゼーションとデジタライゼーションの先にある社員のエクスペリエンスの向上による快適環境を実現させることができます。
リモートワーク系に役立つDXサービス関連など、SaaSとは程遠かった総務部で検討が始まっているサービスも出てきました。その辺りの具体的な事例は今後、この連載でも取り上げていきたいと思います。
総務は戦略的に考えて「予算」を作り出そう
このように、財務的に見ても従来の「固定費」と思われてた不動産コストの見直しとそのトレードオフにより、安価で多くの新サービスを爆発的なレベルで導入可能となります。つまり、総務が戦略的に考えて提案して作り出した「予算」により、DXの推進の可能性が今後さらに広がるわけです。
一方で、実務的に見ると「総務サイフ削減→IT予算」を推進しようとすると、大概の企業では「部門間の壁」が存在します。なかなか「総務」「人事」「テクノロジー部門」が総合的に「予算移管」の突っ込んだ議論ができる場面も少なく、ましてやこの1年半くらいはバックオフィスはリモートでの実務オペレーションをこなすのに精一杯でした。
この「部門間の予算スワップ」の戦略的で深い議論はface-to-faceでないと難しいのが実情です。発注者側でのこの議論と決断、その流れでのバックオフィスのSaaS予算の枠組みの確保、「実行アクション(外部委託要件)→市場へのインパクト」が明白になるのは、筆者は2022〜2023年以降だと予測します。ただ、その前兆は既に起きており、早い企業はガンガン改革を進めてます。
テクノロジー導入の問題児とやゆされてきた総務部ですが、戦略的に動くことにより、2022年以降は「テクノロジー爆推進のための原動力」になれるチャンスがあります。
この連載では今後「戦略総務」の観点に立ち、難しいながらも、とにかく前へ進むチャレンジをしている企業を、主役であるその「総務部」の方々をベースに紹介していきたいと思います。
皆さまお楽しみに。