コロナでハード系のコストが経営者に「見える化」した

 2020年にコロナが来襲し、社会的にいろいろな影響を受ける中で不幸なことが多いですが、総務という目線に立つと、逆にいろいろなことが顕在化したという意味では良い機会と捉えることもできます。コロナが変えた「新たな働き方変革」により、「総務サイフ」内では大きな要素であるオフィスとその周辺のコスト、つまり「ハード系」のコストが多くの企業の経営者に「見える化」したことも大きな変化です。ガランとしているオフィスを見て、もったいないという気付きを与えたわけです。

 リモートワークでも会社の売り上げへ大きな影響もなく、業務も苦労しながらも効率推進できることを発見し、「今まで賑わっていたオフィス」が実はそう見えていただけで直接的に「オフィスの賑わいが会社の生産性に直結していた訳ではなかったのではないか?」という疑問も生まれました。

 つまり、オフィス賃貸スペースとその関連コスト、空調電気代、清掃などは固定費ではなく、そこで働く社員への「投資」と見なされる訳です。投資には当然、リターンが必要です。そのリターンを得る方法として、何もオフィスで働くだけでなく、もっと自由な働き方を実現すればもっと大きなリターンを実現できるという考えに至りました。その傾向が顕著に出ているのが下のデータで、「オフィスの削減または移転などを検討している」と答える経営者はもう50%くらいになり、足元ではどんどん増加する傾向にあります。

(株)叡知のユーザー調査(2021)

 こうした気付きは全ての会社で正しいとはいえないかもしれませんが、相当の部分で的を射ていることも多く、おそらくコロナがなければ向こう10年いや20年、その「気付き」は無かったかもしれないと筆者は考えます。

不動産コストを削減すると、どのようなことができるようになる?

 ここで具体的な数字を挙げてみましょう。

 オフィスなどファシリティにかかるコストは社員1人当たり年間100万円前後といわれます(JFMAベンチマーク)。もちろん、東京・丸の内にある会社と神奈川にある会社では2倍以上も差が出るため、あくまで平均値です。

 このファシリティにかかる費用削減分を「テクノロジー関連」や「人事部施策関連」へコンバージョン(移管)すると捉えたら、どれほどの効果が出るのかシミュレーションしてみます。いずれも企業からしたら間接経費(販管費)の枠組みであり、そのコンバージョンは総務、人事、テクノロジーの役員間、または会社によってはCOOの範疇でコントロール可能です。

 ここでは、模擬的にオフィス返却50%程度の例にて、その不動産コスト関連のハードで捻出された約30万円/社員の削減分を、10万円=IT投資、10万円=人事部予算へ移管、残りの10万円を削減額としてコンバージョンするシミュレーションをしています。

 このさじ加減は会社の状況によりさまざまでしょう。全部を人事部へ振り替えてもよいですし、テクノロジーへ振るなど優先順位があるでしょう。そのいずれのケースにおいても肝心なことは、今まで「予算」がなくてできなかったDX投資やWell-Beingな環境への投資が、できるチャンスがきた、ということです。これは固定費と思われていた(信じられていた)不動産コストが、今やっと「変動費」として社会的に認知されたことが主な原因に他なりません。