社員が我慢を強いられる状況がイノベーションも阻害

 グローバルを見回してみると、総務のプロ化ができていないのは一部のアジア諸国と日本国内だけであることが分かり、がくぜんとします。日本では終身雇用、年功序列のシステムが崩壊すると叫ばれ、それを打破すべく努力するもなかなか変えられず、地道にできることからメンテナンスし、微修正をしているように見えます。この30年もの長い間、総務部はそのあおりをストレートに受けて、相変わらず右へ行ったり左へ行ったりの「何でも屋」を継続しているのが現実でした。

 そして、その結果、オフィス環境や社内ビジネスサービスの進化を後回しにしてしまい、「皆で我慢すれば乗り越えられる!」という昭和の良きも悪しきもある習慣で、その苦労も美徳化してきました。それでも、全ての社員が日本人ならチーム力で乗り越えられるかもしれませんが(と筆者は信じたい)、残念ながら日本人だけで本社が形成されるグローバル企業の未来はそれほど明るいとは思えません。

 筆者が知る限り、多くの日本企業の現場では、結果的に流れの中で我慢を強いられた肝心の社員が生産性を落とすだけでなく、肝心なイノベーションまでも阻害しているという状況にあります。それはまさに社員が「ハンデ」を背負わされたような光景です。自社の海外のオフィスやサービスの話を聞きつけて「うらやましい」と感じる社員すらいます。

ジョブ化が加速すれば「みんなで我慢」は通用しなくなる

 日本では、その「ハンデ」を背負わされた本社の社員に今度は「ジョブ制度」という枠組みだけグローバル標準化するお達しが出て、その中で、さあ「成果を出す必要あり」という非常に不利な戦いを強いられています。

 筆者は日本舞踊を10年ほど趣味でやっていますが、舞踊で「役者」にとって大事なのは「舞台」。これをオフィスに例えると、社員は「役者」(成果を最終的に出す役割)であり、その役者が演技に専念できる最高の舞台とサービスを裏方で考え、展開するのが総務の役割だと思います。歌舞伎役者でも肝心の舞台の空調が効かず空気も悪い、弁当もまずい、カツラ師も三流、道具も不備だらけ、扇子もヨレヨレ、台本も紙ベースだけでは良い演技(パフォーマンス)ができないのは明らかです。

 今後、「ジョブ化」の流れが加速すればするほど、社員はその成果を出すために「舞台」への要望を高め、要求もフェアに厳しくなります。今までみたいに「みんなで我慢」というカルチャーは通用しません。そうした空気が残るビジネス現場では、当然ながら市場競争上、不利となり、優秀人材も消え、倒産のカウントダウンが始まることになるでしょう。

 日本企業が30年前と比べて、その国際競争力を徐々に落としてきているというデータもありますが、こうした「オフィスの生産性の低さ」も一因として挙げられるのではないでしょうか。本来、お金もここに使うべきと分かっていながらも、そこはコスト削減と決めつけるなど、過去のこうした習慣は反省すべきは反省し、これからは戦略的に前進させる必要があります。

 一方で生産現場などエッセンシャルワーカーの質と生産性は、世界屈指の実力を誇るといわれる日本企業。生産性向上へある程度やり尽くした感がある生産現場へ過度な本社経費を載せないためにも、戦略的に改革していくべきは「オフィス」(ホワイトワーカー)の生産性に他なりません。

 さて、そのようなミッションを持ちつつある総務部ですが、「何でも屋」といわれながらもFOSC(ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム)ではその業務を下の表のように整理・分類しています。それぞれのカテゴリーごとにジョブ化、専門性の向上が求められています。特にテクノロジーを扱う「ワークプレイスマネジメント」業務や「インフラ・オフィス運用」業務に関しては、今回から始まった連載記事と関連付けて紹介していきます。

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