※本コンテンツは、2021年6月30日に開催されたJBpress主催「第2回 Marketing & Sales Innovation Forum」の特別講演Ⅱ「こうやって失敗する営業とマーケティング」の内容を採録したものです。

 GEグループで営業、マーケティング分野のトップマネジメントを務めた飯室淳史氏。本講演に先駆けて「視点の大転換を!もう営業もマーケティングも必要とされない理由」を寄稿し、営業もマーケティングも関係なく全社員の努力を、顧客が必要とする価値や成果に結び付けていくことの必要性を説いた。その続編として「実際の行動」に焦点を当てる。

営業もマーケティングも関係なく“やるべきこと”

 私はGEヘルスケア・ライフサイエンスの日本支社で、営業とマーケティングを十数年経験し、その後、アジア全体を統括するマーケティングの責任者、世界全体のデジタルマーケティングの責任者として従事してきました。言い換えれば、国内、アジア、グローバル全体で、たくさんの失敗から学ぶチャンスを頂いてきました。

 皆さん、コロナ禍の現在、何もかも“コロナのせい”と思考停止に陥っていませんか。災害や政治などコントロールできない問題は元々ありました。

 そうした大変な状況の中でこれまで通り、またこれまで以上の仕事をしていくためには、営業やマーケティングといった部門(部署)の区別なく、全社員の努力をお客さまが必要とする価値や成果に結び付けていく必要があります。そのためには、どうしたらいいのでしょうか。

GEの考えるマーケティングの主語は「お客さま」

 私は営業部門にいた頃、「稼ぐ営業が一番偉い」「うちの製品は機能性と価格で売れているのだからマーケティングなんか必要ない」と思っていました。ところが、ある日、マーケティングの部署に異動になりました。

 すると、今度は「マーケティング戦略が会社を動かすのに、営業はマーケティングの戦略通りに動かない」と思うようになりました。しかも、恥ずかしいことに「売れればいい」という浅い考えから、マーケティングを学ぶことを積極的にしていなかったのです。

 そんな折、2004年に自社がGEに買収されました。GEは従業員30万人のうち5000人がマーケターという会社です。フィリップ・コトラー率いる世界最高峰のビジネススクールKellogg School of Managementが監修し、GE用にカスタマイズされたマーケティングの教科書が日本語に訳されており、さらに3日間の研修でスライド800枚くらいを見ながら教育を受けました。

 GEのマーケティングは「機能、性能、価格で売る」「差別化して売る」というものではありませんでした。製品やサービス、まして営業やマーケティングは主語になりません。主語は「お客さま」だというのです。

 お客さまは、営業会議やマーケティング会議にお金を払いたいと思いません。お客さまがお金を払ってもいいと思うのは、GEでいえば、お客さまが注文したCTスキャン装置を組み立て工程においてねじを締める瞬間だけです。

 BtoBのビジネスであれば、お客さまはバリューチェーンをもって自身の顧客に価値を提供しています。その中で、お客さまのゴール達成のための足りない部品、材料、サービス、機会、ソフトウエアこそがお客さまにとっての価値であり、私たちにお金を払ってもいいと思えるのです。

 この前提のもと、全社員の努力をお客さまが必要とする価値や成果に結び付けていく。そうすると、マーケティングは全社員の仕事だということになります。実際、GEライフサイエンスでは、約200人の社員全員がマーケティングのトレーニングを受けました。

 それは専門的なものではなく、どの部署にいようともお客さまが必要とするものを知って、価値を提供する努力をするべきだ、という価値観と行動規範を学んだのです。

マーケティングをDNAに組み込むプロジェクト

 では、これをもっと大きな会社の全体へ展開するにはどうすればいいのか。事例をご紹介します。要点は7つありますが、今回は下の図の赤字の部分だけ取り上げます。

 このケースは、1000人ほどの会社で「マーケティングをDNAに組み込む」というプロジェクトです。初めに、プロジェクトを先導するリーダー13人を経営陣に選んでもらいました。各部署から集まった精鋭です。しかし、ここに最初のハードルがありました。精鋭は通常業務が忙しく、一堂に会することが困難だったのです。

 そこで、スマートフォンアプリで資料を読めるようにし、読後に必ずコメントを付けてもらうことにしました。全140話、1日5話ほどを28日間でこなすボリュームです。そして4週間もの間、資料を読むことと、オンライン上で議論することを行っていきました。

 そうしていくうちに精鋭の意識が徐々に変わっていったのか、その後、「リアルでワークアウト(GEが開発した組織文化の変革メソッドのこと)しよう」と言うと、今度はすんなり集まることができました。

 そこから、活動を社内SNSで広げようとか、全社でキックオフしようとか、さまざまな行動を起こしていきます。しかし、上司の承認や社内ルールといった障壁の前に、ことごとく撃沈します。十数人の変革エバンジェリストだけでは足りなかったのです。

 そこで、自薦でやりたいという人に手を挙げてもらい、プロジェクトに参加してもらいました。さらに部下を持つマネージャーたちに声を掛けていきます。こうして、参加人数はずいぶんと増えました。しかし、人数が増えてもうまくいきませんでした。

「全社でやるのは賛成だけど、うちの部署でやるのは難しい」といった総論賛成・各論反対の抵抗勢力が出てくるのです。プロジェクトの音頭を取っていたのは社長ですが、たとえ社長の言うことでも、他人からの言葉では人間は変わらないのです。

「こんないいことがある」とメリットを体験すれば行動は変わる

 そうした中、この会社で2年間ほとんど使われていなかった社内SNSが、活気を見せ始めます。コメントや「いいね!」の数が跳ね上がったのです。社内の意識や行動の変化がSNSに現れてきたのです。思わぬところに具体的な効果がほんの少し見えて、勇気が湧いてきました。

 ビジョンや変革の必要性を語る言葉よりも、変革によって「実際にこんないいことがある」ということを体験してもらう方が、人は行動を変えてくれるようです。そうした確信を持ってさまざまな行動を起こしました。たくさんありますが、ここでは3つをご紹介します。

 1つ目として、社内に数百種類もあった受注書のフォーマットを統合しました。お客さまにしても、何かやるたびに違う受注書を書かなくてはならず、大変な手間だったのです。

 2つ目は、研修の中で重要顧客を訪問し、お客さまが必要とする成果や価値に焦点を当てて提案することで、新規ビジネスを発掘できた取り組みです。

 3つ目に、デマンドジェネレーションの運用を開始しました。見込み顧客がお客さまになり、ファンになり、リピートオーダー、推薦紹介してもらえる仕組みを、自分たちで回し始めたわけです。こうして、「実際にお客さまの価値につながるんだ」という体験を重ねることで、社員の意識と行動がどんどん変わっていったのです。

 このプロジェクトが成功したかどうかを評価するのは、この会社のお客さまですから、ここでは私たちは成否を評価できません。皆さんもまず、自分のお客さまに興味を持ってください。お客さまの必要とする価値や成果を知った上で行動してください。行動に移さない限り、何も結果は出ません。失敗を恐れず、失敗から学べばいいのです。