鈴木亮平演じる上林の狂気

 前作で呉原市を拠点とする暴力団「尾谷組」と、県内最大の暴力団「広島仁正会」の壮絶な抗争劇を裏で収めた日岡は、今や裏社会の顔役として、警察からも暴力団からも一目置かれる存在となっていた。ある意味、日岡の目論見は成功し、広島の暴力団情勢は小康状態と、危ういながらも秩序が保たれる平和が訪れていた。

 そこに現れたのが、鈴木亮平演じる上林成浩である。出所したばかりの彼がまた、史上最悪最凶のモンスターとして描かれる。江口洋介扮する「尾谷組」の一ノ瀬守孝に殺害された、石橋蓮司扮する「広島仁正会」傘下の「五十子会」会長・五十子正平に忠誠を尽くす上林は、その仇を取ろうと日岡に報復を予告する。

 その圧倒的な暴力性、ほとばしる狂気、容赦なく制裁を加えていく様は悪魔というか、破壊王でしかない。服役中に懲罰房に入れた刑務官の妹を探し出し惨殺。その手口もえぐすぎる。

 さらにその矛先はバブル期を迎え、経済活動に没頭する「広島仁正会」「二代目五十子会」へと向かう。その凄惨な制裁を施す徹底ぶりは圧巻だった。上林を持て余す古参のトップたちはもはや対抗する牙を失い、上林の制裁をただただ受けるしかない。上林が組を牛耳るのは時間の問題だった。

全力をかけて演じる村上虹郎と鈴木亮平の圧倒的熱量がひりひりとさせる

 そして、村上虹郎演じるチンタこと近田幸太の存在があまりにも痛すぎる。日岡のスパイとなって「広島仁正会」に潜り込むのだが、“モンスター”上林を前に、悲惨な目に遭わされるのは目に見えている。かなり早い段階から、胸が締め付けられる思いでチンタの行く末を憂えた。

 そして、徐々に追いつめられるチンタの恐怖、歯を食いしばり踏ん張る健気さに震えた。恐らくどのキャラクターよりも純粋で孤独で、未来のために生きようともがく彼の姿は、日岡とも上林とも違う、哀しい目をした“孤狼”に見える。そんなチンタをじわじわと、捕まえたネズミをいたぶるように楽しむ上林が怖すぎる。果たして、日岡はそんなチンタを救うことができるのか。

チンタの姉・真緒を演じた西野七瀬もまた体当たりの逞しい役どころを演じる

 鈴木亮平はインタビューで「監督からよく『上林、悪いなぁ』と言われていましたが、『悪いのは日岡ですよ』と返していました」と笑った。確かに、「上林の行動はすべて己の正義にのっとった行動だった」と鈴木が語るように、極楽非道ではあるが、彼の中でその行動はすべて正当化されているのだろう。だからこそブレない。笑顔で狂気を演じる鈴木のヒールっぷりは見事としか言いようがなかった。