文=岡崎優子

大林宣彦監督がこの世を去り約1年。今月26日にはメモリー本『大林宣彦メモリーズ』が発売された。今回は通常の公開映画の話ではなく、この本の編集に携わった本コラムの執筆者、岡崎優子氏に制作裏話ついて書いてもらった。その過程からは、生前お世話になった監督への想いが伝わってくる。

カバーを取った表紙は私が撮った尾道の風景。カバー写真(表1、表4)も尾道で撮影された写真。やはり尾道と大林監督は切り離せない

それぞれの想いを一冊に凝縮

 2020年4月10日、3年半にわたるがんとの闘いの末、82歳の生涯を閉じた映画作家、大林宣彦監督。その集大成ともいえる『大林宣彦メモリーズ』が一周忌にあわせた4月26日、キネマ旬報社から発売された。

 本来なら、命日の前に店頭に並ぶはずだったのだが、編集作業が遅れに遅れてしまい……。見本がなんとか命日前に上がっただけでも、自分の中ではまずは良しとしている。

 見本が4月8日の夜遅く手元に届き、その翌日、ご焼香とご報告を兼ねて大林監督のご自宅へ。学生時代からずっと監督と映画製作をされてきた、妻でありプロデューサーの恭子夫人に出迎えていただき、ご仏前に本書をお供えすることが叶った。

 これでやっと肩の荷がおりた。本が完成した歓び以上に、大林監督への義理をようやく果たした、恩返しがなんとかできた――と、まずはほっとしたのが正直なところだった。

 B5判、574ページ、厚さ3センチ強、重量1100g。手にずっしりと重い。

 なんせ個人映画時代から、遺作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』まで、大林宣彦年譜、作品データなどと共に、60年以上歩んだ軌跡を完全網羅。このボリュームは当然といえば当然だろう。

 そして、大林作品がいかにしてつくられたか、というスタッフと出演者の回想。現時点で、それぞれの大林作品はどう受け止められるのか、今新たに何が見えてくるのか、という作品解説。大林監督が長きにわたり『キネマ旬報』に語った自作についての言葉の数々。

 大林監督の本はこれまでにも多数刊行されているが、これだけ関係者の方々が参加し、その想いを一冊に凝縮したものは他にないだろう、と思う。

 

107人の出演者によるメッセージを収録

 大林監督が逝去されたのは、奇しくも最新作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』公開予定日だった。だが新型コロナウイルス感染拡大のため、公開は延期。その後、なかなか公開日は決まらず、お別れ会も開かれないままだった。

 そんな中、5月20日発売の『キネマ旬報』6月上旬号にて、大林監督追悼の特集が組まれた。私も、多くの方々がSNSにあげられた追悼の言葉を集め、監督が亡くなられた4月に起きたことなどをまとめた記事を書いた。

 この特集は読者からの反響も大きく、キネマ旬報社はあらためて大林宣彦監督の追悼本を発売することを決定。ありがたいことに、編集部在籍時代、大林作品を担当したり、原稿や対談をお願いしたり、撮影現場に伺ったりと、大林監督にお世話になっていた私にも声がかかった。

 ただ、コロナ禍の中ではなかなか取材することが難しい。そんな厳しい現状下、いったい何ができるだろう。

 そこで思いついたのは追悼特集同様、多くの方々の声を拾っていくこと。大林作品に出演された方々に、アンケートという形で、監督のことを語っていただくことだった。

 テーマは「大林監督との思い出、撮影現場での思い出」「大林監督から受けた影響、大林監督からの言葉」の二つ。文字数は各200字程度。どちらか一つだけでも構わないと、できるだけ多くの方々に声をかけることにした。