文=岡崎優子

ありふれた尊さ──そんな体験や感覚を分かち合えるラブストーリーとして話題に
©️2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

“鬼滅”を抑え興収首位奪取

 日本での歴代興行収入ランキング第1位を獲得し、いまだ記録更新中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。一度『銀魂 THE FINAL』に首位を明け渡したものの再度返り咲き、そのまま突っ走ると思いきや、1月29日公開の『花束みたいな恋をした』が首位を奪取した。さらに驚くことに、本作の興行収入は2週目に入ってもその勢いは落ちていくどころか前週比116%に伸長、2週連続首位の座をキープしている。

 タイトルからも一目瞭然だが、本作はド直球の恋愛映画。個人的に恋愛映画はあまり得意ではなく、お金を払ってまで観たいと思う作品はごくごく限られている。しかも近年の日本における恋愛映画は少女コミックやライトノベルを実写化した“キラキラ映画”が多く、一時期なぜこんなにヒットするのか知りたく集中して観たことはあったが、今や食傷気味。改めて劇場まで行こうという気にはなかなかなれなかった。

 ところがいきなり興収ランキングの首位につけた本作は妙に気になった。普段、SFやサスペンス、ホラーなどジャンル映画を好み、恋愛映画をほとんど観ない知人まで劇場に行っているのだから、この気になり方は私だけではないのだろう。

 TVドラマ「東京ラブストーリー」(91)、「Mother」(10)、「最高の離婚」(13)、「カルテット」(17)など、数々の連続ドラマの名作を手掛けてきた脚本家・坂元裕二のオリジナル作品ということも大きい。しかも坂元はインタビューで「映画は向いていない」と語っているが、実際、映画の脚本を手掛けたのは『西遊記』(07)以来。恋愛映画に至っては共同脚本として『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)に携わったくらいと、映画作品に絡むことはほとんどなかった。それだけに、世間的にも公開前から注目が集まっていた。月刊誌「ユリイカ」最新2月号では丸ごと坂元裕二を大特集。「『東京ラブストーリー』から『最高の離婚』『カルテット』『anone』、そして『花束みたいな恋をした』へ…脚本家という営為」のサブタイトルが、ドラマファンの心をざわつかす。