TVドラマの名手が手掛けた恋愛映画

 90年代の連ドラ黄金期、「東京ラブストーリー」にハマった世代にとって、坂元裕二はずっと気になる脚本家の一人だった。加えて監督の土井裕泰もTBSのTVドラマ・ディレクターとして「愛していると言ってくれ」(95)をはじめ、数々の話題作を手掛けている。代表的なTVドラマは「青い鳥」(97)、「ビューティフルライフ」(00)、「GOOD LUCK!!」(03)、近年では「逃げるは恥だが役に立つ」(16)「凪のお暇」(19)などの話題作が記憶に新しい。しかも坂元とは「猟奇的な彼女」(08)でタッグを組み、二度目の「カルテット」(17)でチーフプロデューサーを務めている。

 また、土井は映画監督としても力量を発揮。『いま、会いにゆきます』(04)でのデビュー以来、「涙そうそう」(06)、「ハナミズキ」(10)、「映画 ビリギャル」(15)などヒット作を多数手掛け、昨年は「罪の声」が話題となり、報知映画賞、日刊スポーツ映画大賞で作品賞、日本アカデミー賞ではスタッフ&キャストが優秀賞を受賞するなど高評価を得ている。

 予告編を見る限り、死や病や事故といったネガティブでドラマチックな仕掛けは何もない。いわゆるごく普通の若い男女の恋話のよう。それなのに、あの『鬼滅の刃』旋風を抑えるほどの力が、この恋愛映画にあるなんて。一体どんな力が秘められているのか。好奇心もあった。もしかしたら、90年代に「東京ラブストーリー」が社会現象を巻き起こすほどの話題作となったように、時代と世代を映した“今の”恋愛映画に立ち会えるかもしれない。そんな期待もあった。

主演は今や押しも押されぬ人気実力派俳優、菅田将暉&有村架純。その安定した演技力は確かで、脚本はこの二人を想定して当て書きされたというから、さらに期待値は上がった。

舞台は東京。拠点となるのは多摩川沿いの広いワンルームマンション。21歳から26歳までの二人がここに暮らす ©️2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

きっかけは押井守だった!?

 物語は、大学生の二人が終電を逃したことから始まる。駅に取り残されたのは男女4人。彼らは仕方なく深夜のカフェへ。その別席に居合わせたアニメーション演出家の押井守が、本人役で出演しているのがツボだった。押井を知らない男女は別話で盛り上がってタクシーで帰り、テンションがあがった二人は居酒屋へ。好きな音楽、映画、本について話は尽きず、気付けば二人は恋に落ちていた……。

 恋の始まりをはたから見ているのは楽しい。だが、その煌めきが色褪せていき、二人の生活が変わることで余裕がなくなり、時間ばかりか心まですれ違ってしまう。誰が悪いわけでもないのに、思いやりの言葉も少なくなる。そこには二人の5年間の恋の軌跡が凝縮されていた。