リアルな恋の話が共感を生んでいる、と言われるのもなるほど納得がいく。喧嘩一つをとっても、身に覚えのあるようなシチュエーションだったり、台詞だったり。劇中に出てくる作家、映画、TV番組、ファッションなどなど、自分も好きだったトピックがバンバン出てくる。それも坂元裕二のこだわりだった。「脚本を書く前に、観察をもとにした5年分の固有名詞をすべて書き出して、年表を作ってから進めた」と、坂元はインタビューでその制作過程を明かしていた。
世代を象徴するポップカルチャーに身を置き、嗜好が似ている者同士が惹かれ合う。その符号として、挙げられた固有名詞は観客の個人的体験や嗜好も巻き込み、共感を生み、二人の5年間に自分事を重ねていく。
仕事人間は“パズドラ”にハマる!?
菅田将暉演じる麦が好きだったイラストで身を立てることを諦め、一般企業に就職。仕事に忙殺され読む本も小説から自己啓発本に。映画に行くことも少なくなり、アート系映画を楽しむことすらできなくなってしまう。時間をかけてステージをクリアし物語を進めていくRPGゲーム“ゼルダ”から遠ざかり、反射神経で楽しめる“パズドラ”しかやりたくなくなる……。嗜好や考え方まで変わっていく過程が、その符号によってリアルに見えてくる。
好きなことを仕事にしたい。仕事は遊びじゃない――二人の溝が徐々に深まり、決定的ともいえるぶつかり合い。恋愛のステージを終わらせ、結婚へと進めば恋愛とは違う感情が生まれ、うまくいくのか。別れを意識し始めながらも、今度はそのきっかけがつかめない。
同棲と結婚には大きな壁があり、別れのタイミングを失い、時間ばかりが過ぎていくこともままある。別れは一緒になることよりも何倍ものエネルギーが必要なのは確か。そんな葛藤や悲しみを経た、二人の現在はいかに。
『花束みたいな恋をした』。そのタイトルにふさわしく、過去の楽しかった日々を慈しむことができる恋愛の愛おしさ。サスペンスもホラーもアクションも絡まない“普通のありふれた”恋愛映画もまだまだ行けるんだなと、嬉しくなった。