「トレンディドラマ時代のような話は今の日本では嘘になってしまう」と、社会とうまく折り合いをつけ生きていく若者が描かれる ©️2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

 リアルな恋の話が共感を生んでいる、と言われるのもなるほど納得がいく。喧嘩一つをとっても、身に覚えのあるようなシチュエーションだったり、台詞だったり。劇中に出てくる作家、映画、TV番組、ファッションなどなど、自分も好きだったトピックがバンバン出てくる。それも坂元裕二のこだわりだった。「脚本を書く前に、観察をもとにした5年分の固有名詞をすべて書き出して、年表を作ってから進めた」と、坂元はインタビューでその制作過程を明かしていた。

 世代を象徴するポップカルチャーに身を置き、嗜好が似ている者同士が惹かれ合う。その符号として、挙げられた固有名詞は観客の個人的体験や嗜好も巻き込み、共感を生み、二人の5年間に自分事を重ねていく。

©️2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

仕事人間は“パズドラ”にハマる!?

 菅田将暉演じる麦が好きだったイラストで身を立てることを諦め、一般企業に就職。仕事に忙殺され読む本も小説から自己啓発本に。映画に行くことも少なくなり、アート系映画を楽しむことすらできなくなってしまう。時間をかけてステージをクリアし物語を進めていくRPGゲーム“ゼルダ”から遠ざかり、反射神経で楽しめる“パズドラ”しかやりたくなくなる……。嗜好や考え方まで変わっていく過程が、その符号によってリアルに見えてくる。

 好きなことを仕事にしたい。仕事は遊びじゃない――二人の溝が徐々に深まり、決定的ともいえるぶつかり合い。恋愛のステージを終わらせ、結婚へと進めば恋愛とは違う感情が生まれ、うまくいくのか。別れを意識し始めながらも、今度はそのきっかけがつかめない。

 同棲と結婚には大きな壁があり、別れのタイミングを失い、時間ばかりが過ぎていくこともままある。別れは一緒になることよりも何倍ものエネルギーが必要なのは確か。そんな葛藤や悲しみを経た、二人の現在はいかに。

 『花束みたいな恋をした』。そのタイトルにふさわしく、過去の楽しかった日々を慈しむことができる恋愛の愛おしさ。サスペンスもホラーもアクションも絡まない“普通のありふれた”恋愛映画もまだまだ行けるんだなと、嬉しくなった。

1月29日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開中(配給:東京テアトル、リトルモア)
©️2021『花束みたいな恋をした』製作委員会